読書

澤宮優著『この腕がつきるまで 打撃投手、もう一人のエースたちの物語』(角川文庫、2011/10)

親本は2003年に現代書館より刊行された『打撃投手』。タイトルでわかるとおり、打撃投手たちを取り上げたルポルタージュ。 まず冒頭が面白い。打撃投手という存在はどうして生まれたのか、諸外国ではどうなっているのかが綴られている。要約すると、練習好き…

佐藤さとる作、村上勉絵、中島京子解説『コロボックル物語4 ふしぎな目をした男の子』(講談社文庫、2011/8)

・今作は面白かった。「あとがきその4」で明かされる刊行のいきさつも。 ・シリーズに通底するものとして中島さんがあげている「自然との共存」という観点に共感。 ・シリーズものの巻末解説は、後ろの巻にいくほど難しい? 前の人と重ならないようにする必…

山田玲司著『新・絶望に効く薬』(光文社、2011/7)

掲載誌が『FLASH』に変わっての続編。1回あたりの分量が大幅に減り、登場してくれる人も自由には選べなくなった。そんな制約は、確実に面白さを落としている。 ただ、単行本化にあたって、取材時の模様をテキストで収録する試みはよかった。たとえば、中川翔…

中川家礼二×原武史『「鉄塾」関東VS関西 教えて!都市鉄道のなんでやねん?』(ヨシモトブックス、2011/8) 『笑う鉄道』のムック形式が私は好きだった。だから、こういうふうにカバーがあって帯もつけてというのは、堅苦しく感じる。それでも、『笑う鉄道』…

佐藤さとる作、村上勉絵、重松清解説『コロボックル物語3 星からおちた小さな人』(講談社文庫、2011/5)

「広いバス道路に出れは、駅はすぐ前」(p.65)って、誤植かね?

佐藤さとる作、村上勉絵、有川浩解説『コロボックル物語2 豆つぶほどの小さないぬ』(講談社文庫、2011/2)

前作と主人公が違い、かなり読みづらさがあった。

佐藤さとる作、村上勉絵、梨木香歩解説『コロボックル物語1 だれも知らない小さな国』(講談社文庫、2010/11)

出だしは少しとっつきにくかった。だけど長く愛されてる作品だけあって、やっぱりリーダビリティが高い。話があっちこっちいかない。 感心したのがあとがき。本の形態が変わるごとに書いていて、4回分収録されている。それだけ書いていながら、各々しっかり…

高山文彦著、勝目梓解説『エレクトラ 中上健次の生涯』(文春文庫、2010/8)

評伝。中上は『十九歳の地図 蛇淫』を読んだことがあるぐらい。本書ではその『十九歳の地図』に触れた部分(p.219、247)が興味深かった。こんなバックグラウンドがあったのかと。 あとは、機会があったら『紀州 木の国・根の国物語』を読んでみたい。

有島武郎著、重松清解説『一房の葡萄』(ハルキ文庫、2011/4)

童話作品5篇に「小さき者へ」を併録。作品群が書かれたのはおよそ90年前。それに加えて分量が短いのもあるだろうが、発生するハプニングが素直すぎて、いま読むと面白みに欠けるなと思った。 最後の「小さき者へ」は、子らへメッセージを送ることで、自分自…

宮脇俊三著、山崎正和解説『時刻表2万キロ』(河出文庫、1980/6)

国鉄全線完乗へと至る道程の終盤部分を綴った1冊。終盤ということはつまり乗りにくいところだらけで、今はなくなった線・移管された線も多い。突っ込んだ知識がない私は、「現存してるのかな」と調べながらの読書になった。 びっくりしたのがp.81。昭和51年…

『シリーズ野球彩色4 野球「音」物語』(ベースボール・マガジン社、2007/12)

トランペット、球場BGM、野球ゲームのサウンド等々、音についてのインタビュー・コラムをまとめたムック。なかなか情報量があり、読みでがあった。以下、感想&メモ。 巻頭は青木のインタビュー。ラミレスとガイエルに挟まれていた当時、捕球の掛け声は「I go…

雨宮処凛著『ロスジェネはこう生きてきた』(平凡社新書、2009/5)

著者は過去に『生き地獄天国』という自伝を出している。これも自伝的な本。どう違うかというと、単に自分がやってきたことをつづったのが『生き地獄天国』で、時代の出来事のなかに自分を位置づけたのが本書。 興味をひいたのはまず、『生き地獄天国』が出た…

桜庭一樹著、吉田伸子解説『荒野 16歳 恋しらぬ猫のふり』(文春文庫、2011/3)

これで完結だが、物足りなさが残った。解説のトーンが「『私の男』も読め」だからかな。あるいは第1部・第2部ほど、変化のポイントがないこともあげられるかもしれない。コンタクトレンズぐらいで……。 - 第1部の感想を書いたとき、この本の解説者を予想した…

原武史著『鉄道ひとつばなし3』(講談社現代新書、2011/3)

1/3ぐらい初出時に読んでいたこともあり、これといった感想はない。序文の「教会や広場が事実上存在しない日本」(p.4)という部分は、頭に残しておきたい。あとは、ワルシャワの地下鉄駅ホームにかかる跨線橋うんぬんいうくだり(p.198)があるのだが、地下…

石井光太著『神の棄てた裸体 イスラームの夜を歩く』(新潮文庫、2010/5)

自分にとってこの本が震災前後になった。最底辺には想像以上にひどい現実があり、読み進めるのがつらかった。特に終盤、警官とやりあうくだり。一方、読んでの収穫は世界各地で規範もさまざまだとわかったことかな。 著者については、会話文の文体に対するこ…

片桐はいり著、片桐真解説『グアテマラの弟』(幻冬舎文庫、2011/2) グアテマラで暮らしている、疎遠だった弟。あるきっかけを得て、ふたりの交流が始まる。 ところ変われば価値観も変わると強く思った。グアテマラにはアルバイトのシステムがないため「マ…

岩淵弘樹著、高橋源一郎解説『遭難フリーター』(幻冬舎文庫、2010/12)

借金を抱えて仙台から埼玉県本庄市へ。キヤノンの工場で派遣労働者として働いた著者の記録。親本は2009年、太田出版刊。 読み始めて、そういえば雨宮処凛の『生きさせろ!』で紹介されていたのを思い出す。そこに書かれていたのは工場に流れ着くあたりが主な…

『「恋のから騒ぎ」卒業メモリアル'10-'11 17期生』(日本テレビ、2011/3)

最後だからといって変わったところはない卒業アルバム。 (p.77)MVP予想の佐藤綾香の欄「そのタカビー度は、恋から8期生の"みさえ"をほうふつさせる」。懐かしい名前だ。 (p.78)「さんまの嫁に似合うメンバーは?」の問いかけに、佐藤綾香と答えた河原。…

中森明夫著『アナーキー・イン・ザ・JP』(新潮社、2010/9)

面白かった。17歳の高校生シンジに、大杉栄が憑依する。そのアイデアが小説の核なのだが、大杉だけではなく著者自身ものりうつっているかのようだ。それぐらい随所に中森明夫があふれてる。たとえば、インターネットを「インターナショナル・ネットワークの…

桜庭一樹著『荒野 14歳 勝ち猫、負け猫』(文春文庫、2011/2)

年齢を重ね、またひとつまたひとつと変化が訪れる。にきびができる、ひとりで喫茶店に入ってみる、そして恋の新たな形を知る……。男と女が変わっていく。 前巻同様、面白く読んだ。山野内正慶に顔を覚えてもらう戦略(p.54)とかね。アイドルの握手会だとこう…

桜庭一樹著『荒野 12歳 ぼくの小さな黒猫ちゃん』(文春文庫、2011/1)

山野内荒野(こうや)、12歳。父は小説家。そんな彼女が過ごす学校での日々、家での生活。 ちゃんと読むのは初めての作家だが、面白かった。女の子を描いた小説はいくらでもあるが、本作品は日常の変化が感情に対してもたらす影響にすごくセンシティブだと思…

鈴木成一著『装丁を語る。』(イースト・プレス、2010/7)

過去に自らの手がけた本をピックアップ。装丁の意図を解説したり、裏話を打ち明ける1冊。 思いつくままに感想を書いてみると、まずカバーの写真だけで鈴木成一のすべては理解できないよな、ということ。当然、文字の組み方などにかかわってる例もあるだろう…

田牧大和著、高木秀樹解説『花合せ 濱次お役者双六』(講談社文庫、2010/12)

人騒がせながらも憎めない歌舞伎役者・梅村濱次。数々の騒動が彼の周りで起こる……。 時代小説は苦手なのだが、これはよかった。子ども向けアニメのような明快なキャラクター設定で読みやすく、書いているのも不快感ゼロの気持ちいい話だけ。エンターテインメ…

加藤元著『山姫抄』(講談社、2009/10)

とある男と暮らすために田舎町へやってきた一花。狭い世界での人間関係、そして山姫伝説の存在する土地で、彼女は生活を始める……。 自分にとって苦手なタイプの小説だった。いや別に小説に限らないのだが、登場人物が多く、関係が入り組んでいる話は、頭のな…

塩田武士著『盤上のアルファ』(講談社、2011/1)

社会部から文化部に左遷され、興味もない将棋を担当することになった新聞記者・秋葉。時おそくしてプロを目指そうとする30代の男・真田。このふたりが織り成す物語。第5回小説現代長編新人賞受賞作。 帯には「これぞエンターテインメント!」とある。まさに…

稲葉なおと著、重松清解説『0マイル』(小学館文庫、2011/1)

フォトグラファーの主人公が息子を連れてアメリカはフロリダへ。ホテルの姿を写真に収めるべく、北へ南へ車を走らせるという長編小説。 率直に感想をいうと面白かった。写真家のリアルというか、一般人にはわからない面を知ることができる。それも単に情報と…

樫崎茜著、瀧井朝世解説『ボクシング・デイ』(講談社文庫、2010/12)

「き」と「ち」がうまくいえない小学校4年生の女の子、栞(しおり)。「ことばの教室」に通っている。 ……と書くと、吃音を思い浮かべる人もいるだろうか。しかしそうではない。 吃音は精神面のことだが、栞が抱えているのは技術的な問題だ。私も「ことばの教…

藤沢周著、若林正恭解説『オレンジ・アンド・タール』(光文社文庫、2010/12)

親本は2000年、朝日新聞社(当時)刊。それは持っているのだが、文庫版も購入とあいなった。オードリー若林の解説があまりにもすばらしいからだ。 人には現状維持の習性があるらしい。このまえ新聞で読んだ。「オレンジ・アンド・タール」の高校生たちもそう…

広池浩司著『入団への道 夢をつかむまでの軌跡』(ザメディアジョン、2010/3)

全日空の一般社員だった1997年、カープの入団テストを受験。ドミニカ修行を経て、翌年ドラフト8位で指名を受ける。入団後は主に中継ぎ投手として活躍し、2010年限りで引退。ライオンズの打撃投手に転身する。そんな著者のブログから選りすぐった1冊。 内容は…

酒井順子×関川夏央×原武史『鉄道旅へ行ってきます』(講談社、2010/12)

3人で旅行しながらの鼎談が6本に、各自のひとり旅が1本ずつ。以上は『小説現代』初出。あとはまえがき(原)、なかがき(酒井)、あとがき(関川)的なものが書き下ろしで収録されている。 走行中の部分と関係ない話が多いなというのが全体的な印象。あとは…