塩田武士著『盤上のアルファ』(講談社、2011/1)

社会部から文化部に左遷され、興味もない将棋を担当することになった新聞記者・秋葉。時おそくしてプロを目指そうとする30代の男・真田。このふたりが織り成す物語。第5回小説現代長編新人賞受賞作。
帯には「これぞエンターテインメント!」とある。まさにそのとおりだと思う。相沢・加織・静という女性たちの描写を見ると、読者の引きつけ方がよくわかっているなと感じる。
そして文章もうまい。「エレベーターには乗らず、一階から階段を一歩一歩踏みしめるように上がってきた。何故そうしようと思ったのかは、自分でもよく分からない。ただ、遠回りしてきた自らの歩みを確認したかったのかもしれない」(p.226)。この部分だけ読んでも、力のほどがわかる。
しかし一方で、面白い以上の何かがなかったという気持ちもある。しいていえば、ふたりがこの先の人生に思いをめぐらせる部分(p.213-215あたり)がいまの時代っぽいなと思ったぐらいで。
だから今後、著者が何をどう書いていくかは興味がある。これの続編なんて楽なところには逃げないでほしい。