加藤元著『山姫抄』(講談社、2009/10)

とある男と暮らすために田舎町へやってきた一花。狭い世界での人間関係、そして山姫伝説の存在する土地で、彼女は生活を始める……。
自分にとって苦手なタイプの小説だった。いや別に小説に限らないのだが、登場人物が多く、関係が入り組んでいる話は、頭のなかで処理できなくなってしまう。読み進めるなかで繰り返し説明してくれないかなと期待したが、それはなかった。だから、もしこの本を手に取る人がいたら、人間関係をしっかり整理してページを繰るのを強く勧める。
ストーリー運びには力があった。それと、伝説という題材をうまく扱えていると思う。事実が最後までちょっとずつしか明かされない。伝説は漠然としているがゆえに長続きするのだろうから、何でもかんでもつまびらかにしない展開は、題材に対してマッチしている。

      • -

第4回小説現代長編新人賞受賞作。著者はこの後、2010年7月に受賞第1作として『流転の薔薇』を出している。