澤宮優著『この腕がつきるまで 打撃投手、もう一人のエースたちの物語』(角川文庫、2011/10)

親本は2003年に現代書館より刊行された『打撃投手』。タイトルでわかるとおり、打撃投手たちを取り上げたルポルタージュ
まず冒頭が面白い。打撃投手という存在はどうして生まれたのか、諸外国ではどうなっているのかが綴られている。要約すると、練習好きな日本野球特有のものらしい(もっというと、日本「プロ」野球)。
そして続々登場する打撃投手。彼らは総じて苦しんでいる。選手時代、打たれないことが目的だったゆえに、打たせる役割への転向をプライドが邪魔するのだ。
個々人の発言からも、この職業の特徴が浮かび上がってくる。
藤本修二の指摘(p.165-166)。バッティング練習は、傷のついた新品ではないボールを使う。そのために曲がりが大きくなる。
扇原修の指摘(p.91-92)。打撃投手はフォームを変えねばならない。リリースポイントを早くして、バッターに見やすく投げる必要がある。
近藤隆正の指摘(p.59)。好かない男にはストライクを放りたくない。礼儀が大切。
こうした言及を読んで、うっすらとした存在だった打撃投手が、自分のなかで厚みを得たような気がする。これからはピッチャー目線でバッティング練習を見ても、楽しめそうだ。