『月刊ドライブイン』vol.12

今までは各号2店舗を扱っていたが、最終号はドライブイン薩摩隼人のみ。
写真展で見たとき、ヤバそうな外観だなあと思った。だからぶっとんだ話が満載なのかと思いきや、まったく逆。きわめてまっとうな精神の上に成り立っていた。
貞美さん陽子さん夫妻は、1969年に天文館で軍国酒場を始める。貞美さんは軍国少年ではない。敗戦を知ったときは、笑いが止まらなかったそうだ。
店にかんしても「政治の話はご法度(略)死んだ人のことを供養しながら歌でも歌って愉快にやりましょうと。そういう考えで『軍国酒場』をやってきた」と語っている。
譲り受けた軍服・軍用品が展示しきれないほどになり、供養のために資料館を作る。あわせてドライブインも始めた。それが1978年。隼人近辺に競合はなく、繁盛したということである。
陽子さんの入院によりドライブインは閉めていたが、昨年4月に再開。
貞美さんは嘆く。
「違う考えを尊重する、それが民主主義よ。でも、今は違う考えを持っとる人を否定するでしょう。それではいかんわけよ」
どこを切り取っても、まっとうな人なのだ。おまけに商売をことごとく当てているから、読んでいて爽快感しかなかった。
これで終刊。振り返って思うのは、旅をしているが紀行ではないんだよなということ。筆者の存在は背後にあり、クローズアップされるのは店と店員。この姿勢は、物書きには参考になるんじゃないかな。