豊島ミホ著『大きらいなやつがいる君のためのリベンジマニュアル』(岩波ジュニア新書、2015/5)

新聞広告で見つけて衝動的に購入。この著者がこういう題材を書いたら、興味を引かれないわけがない。
タイトルはマニュアルとなっているが、著者の自伝として読める。物語は高2のときに孤立し、保健室登校になる場面からはじまる。その経験は予備校・大学生活にも大きな影響を与え、作家となったのちも人づきあいに鬱屈を抱える。いまその闇を抜けた彼女が昔の自分を思い出し、アドバイスをおくる。
一言で感想をいうと、ものすごく満足。読み物として面白いし、エピソードにも共感できる。また彼女のバックグラウンドを知って、作品を読む視点がいままでと変わるのは間違いない。つまり彼女の読者であるならば、さらにおいしい一冊になっている。
いちばん共感したのは、予備校についての記述。浪人したことのない人にむけて、これこれこういう場所だからいじめはほぼ起こりえないと説明している。私もまったく同じふうに考えていたのを思い出す。神経はりつめることなく通えるとわかって、とても安心したなあ……。ちなみに彼女は仙台の代ゼミ。私は横浜。いじめが起こりえない理由のいくつかは、代ゼミの雰囲気にもよると思った。どちらの校舎もいまはない(笑)。
有益に感じたアドバイスは、「(ヤなやつに対して)相手を変えようと思わない。相手と自分との接点だけを切る」(p.185)。これ、私には大きな気づきだった。コミュニケーションの得意なみなさまは感覚的にわかっていることなんだろうか。
最後にひとつだけ不満を書く。この本には綿矢りさの名前が登場してほしかった。「スペック」が下のグループである著者にとって、同じ大学のキラキラしたスーパースターはイヤでも意識する存在だっただろう。本書の展開上、言及は避けられないはずなのになという残念な気持ちがある。
ふたりは2009年春に出た『Feel Love』vol.6で対談している。以下はそこでの豊島の発言。
「『インストール』が大学生協の書店に平積みされていて、それを見た瞬間「ヤバイ」と思った(笑)。この子が万が一早稲田に入ってきたら、力の差で負ける、私の存在は消されると(笑)」
本書を読んだあとだと、まったく見かたが変わる。面白くしようとネタでいっているのではないことがわかる。