『私のなかの彼女』(新潮社、2013/11)

ものすごく興奮をおぼえる作品だった。これほど先が読みたくて止められなかったのは、勝目梓の『小説家』以来だと思う。
内容を書くと、私小説ではないが、部分的に「私」がうかがえる小説、といったところだろうか。1980年代半ば、年齢的に著者と重なる主人公の学生生活に物語が始まる。そして時間が流れていく……。
ストーリーへ触れずに面白さを紹介するのは難しいが、著者と似通った人物・境遇を設定したことで、書き込まれた感情が角田光代その人とつながってくる。もちろん著者の感情をストレートに反映したものもあれば、創作もあるだろう。しかし、後者であっても表現としてはその感情を有しているわけだ。
本書はそうした感情の数々をのぞき見している感覚があった。のぞき見といったって、のぞければなんでもうれしいわけではない。男の私が男の着替えを見ても興奮はしない。
そこのところ、本書でのぞけたのは価値あるものだった。作家として大切な感情がさらけだしてあった。以上が面白さのひとつ。
もうひとつは、単純に自伝的小説へせず、創作のなかに感情を埋め込んだところ。祖母の謎が興味を引きつけ、娯楽としての楽しみを増している。
と同時にこんな考えも浮かんだ。自伝的小説にすることは、主人公が忌避する「自分が……、自分が……」につながりかねない、だから創作にしたのでは、と。
それが当たっているかはさておき、角田光代のここまでの人生と、これからの決意を秘める重要な作品だと捉えた。