石橋幸緒著、蝶谷初男執筆協力『出だし4手で知る石橋幸緒の将棋レシピ 知ると、もっと楽しい将棋・序盤の指し方』(長崎出版、2011/5)

まず購入の経緯から。本書の存在は「棋書ミシュラン!」の掲示板で知った。それで立ち読みをしようかと思ったが、刊行から1年半たっていて、なかなか本屋で見つからず(同じ著者の『駒落ちレシピ』はよく見るのだが……)。
さらにに値段が1995円と高め。内容確認せずにネット購入はリスキーだ。
しかし、いつまでも悩んでても時間のムダなので、思い切って買ってしまった。
結論からいうと、すごくよかった。ぐーんと実力アップという本ではないが、将棋の形がとてもよくわかった。

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対象レベルは、一応冒頭に「10級から初段」とある。入門書ではないので、駒の動かし方は載ってない。
順番に中身を紹介すると、第1章は「予備知識」。勉強になったのが棋譜の読み方。同じ場所に複数の駒が動ける場合、たとえば「▲5五金寄」と文字をつけ、区別することがある。用法を知らずとも、盤面を見れば動きはだいたいわかる。ただ、逆に文字を記す側になると、けっこう難しいんだなあと思った。
たとえば下記は本書10ページの図。2一に移動する場合、それぞれどのように表記すればいいか。もし私と同じで知識があやふやだったら、この部分は有用だろう。

あとうれしい配慮があって、それは文字の読み方が書かれているところ。たとえば直は「ちょく」でも「すぐ」でもいい。あるいは不成が「ならず」とか、そんなレベルから教えてくれる。やさしい。
「予備知識」の章はほかに、駒を盤に並べるときの順番と、振り駒のやり方など。
第2章は「将棋の全体像を知ろう」。ここで有用だったのが、後半の囲いについて書かれた部分。
入門書だと、組みあがった図を提示するだけの不親切なものが多い。本書がそれらと違うのは、まず居飛車の囲い・振り飛車の囲い・相振り飛車の囲いと大別して説明していること。
そして手順の説明も明快。基本となる囲い*1までの指し手を説明。そこからグレードアップ*2するには、「最初の囲いからこういった順に動かせば移行できる」という書き方になっている。囲いの進展がはっきりしていて、とても理解しやすかった。
これが不親切本だと、まず囲いがいっぱい載っていて、どれを使えばいいかわからない。さらに手順が書いてないから、動かす順番も理解不能だったりする。
第3章・第4章は、タイトルにある出だし4手の構成を見る部分。チャートが多用されていて、何度も立ち止まって確認できるようになっている。同じことが意図的に二度繰り返される部分もあり、読みながらに復習ができるつくりなのがいい。
第5章「将棋の戦法を知ろう」。出だし4手から進んだ先で考えられる戦いを紹介している。扱われているのは「相掛かり戦法」「先手居飛車VS後手振り飛車戦法」「角換わり戦法」「中飛車戦法」「矢倉戦法」「横歩取り戦法」「先手振り飛車VS後手居飛車戦法」。
感心したのが相掛かりの序盤、歩を突きあった後の5手目で、先手が▲7八金をせずに▲2四歩をした場合について解説した部分。
他の本だと、「(下図のような)カウンターがある。したがって▲7八金が必要だ」ぐらいの記述のみで、その後の変化は書かれてない。

しかし、私のような初級者レベルだと、▲2四歩と突っ込んでくる人もけっこういるのだ。たいていは失敗に気づいて考え込むのだが、先日将棋ウォーズにて、計算ずくでやってる対局者がいた。考える間もなく指していたし、過去の棋譜を見ても▲2四歩だった。だから、「正しく対応されれば不利だが、相手がそうできない可能性が高い」とふんでいるのではないか。
実際、私は本書を読んで▲2四歩への対応が不完全だったのに気づかされた。
相掛かりで突っ込んできた先手が9手目で左図のように指す。そこから3手進んで右図。先手はたとえば▲2八飛と引くが、後手をもつとして、次の一手は大丈夫だろうか。不正解例は文末に載せておく。不正解を見れば、正解はわかると思うので……。
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また下図は、最初のカウンター図から、▲2三歩、△8八歩成、▲同銀、△3五角、▲2八飛、△5七角成、▲2二歩成と進んだところ。こちらも次の一手は問題ないだろうか。

正しく指せるかは棋力次第だが、私なんかはセオリーとしてやらないものをいざやられてみると、けっこう戸惑う。そこをしっかり解説してある点はポイントが高い。
最後にもう一度、対象レベルの話をしたい。私は居飛車で指す。だから、居飛車について書かれた部分はスムーズに読み進められた。しかし、振り飛車のなかでもゴキゲン中飛車の箇所は理解に苦しんで、二度読むことになった。それで把握できたから問題ないのだが、要は自分が触れたことのない形を、一発でわかるのは厳しいかもしれない。
だから、『羽生善治のみるみる……序盤』の次として適するものの、それはいくらかの実戦経験があっての話だと思う。
【参考までに筆者の現在の棋力】将棋倶楽部24・14級(最高R222)、将棋ウォーズ3級。
【文中の不正解例】「△2三歩」および「△8八と」

*1:居飛車だったら舟囲い。

*2:居飛車なら左美濃囲い・左高美濃囲い。