天野貴元著『奇襲研究所 嬉野流編』(Kindle版、2015/5)

買った理由は、単純に奇襲が面白そうなのがひとつ。あとは先手番の作戦に悩んでいたので実戦投入できればいいなと。
嬉野流とは初手▲4八銀から▲7九角と進める指し方。本書は大きく分けて、対居飛車・対振り飛車の2章構成。対居飛車は相手が飛車先の歩を切る・切らないでパターン分け。対振り飛車のほうは、中飛車・四間・三間・向かい飛車とフルコース。
本全体の評価はまずまずといったところ。実戦ではあまり同じ形にならないため、勘所をつかむのが大事。その点で本書は、作戦の解説だけでなく将棋そのものの考え方にも言及していて好感がもてる。
ここ2ヶ月ほどウォーズで嬉野流を指してみた。感想としては戦型指定しやすいのが大きなメリット。あとは序盤で相手に時間を使ってもらえる。形勢は奇襲らしく一気によくなることもあれば、その逆もありトントン。互角で序盤を終えた場合は、中終盤の力がものすごく必要。そのへんが弱い私には向かない気もするが、鍛える意味でしばらく続けてみようかなと思う。以下は本書への不満。
【対三間の重要変化について記述がない】

後手が3筋の歩を伸ばして、こうなったとしよう。先手は次に▲4六銀とすれば歩取り。△1四歩から△1三角という支え方をすれば▲1六歩から▲1八飛と回る指し方がある。
あるいはのんきに△4二玉なら▲4六銀で、そこから飛車先を切ってもフタ歩が激痛。
このへんは発売記念のニコ生で紹介されている。とはいえ本で省略されたのは残念。奇襲らしく、一気に有利になれるかもしれないのに……。
【初手▲4八銀に△8四歩はどうなのか】
3手目▲7六歩で「相矢倉の出だしと同じになる」と本書(p.11)。しかし▲7六歩と突かずに嬉野流へ進めることだってできるわけで、その場合どうなるのか知りたかった。具体的には後手が飛先不交換で原始棒銀をした場合、受けは間に合うのか。無理なら「矢倉にしましょう」と明確に記すべきだろう。なお、2chには▲8八金▲7八玉型で受けてはどうかと書き込みがあった。個人的にはただ受けただけに見えて指しづらいかなあ。
【対中飛車でいきなり飛車先を切ってきたら】

この局面から本書は駒組みに進む。しかし△5四歩▲同歩△同飛はあると思うし、実戦でもやられた。そうした場合の方針について一言ほしかった。駒組みに移行するケースとは別の将棋だと思うので……。
【アブノーマルな相手への対策】
相嬉野流や袖飛車、飛先不突の右四間への言及もあればなおよかった。これは本じゃなくてニコ生でも十分だが。
【誤植など】
p.184:「▲4八銀上△6二玉▲3六歩」p.200:「▲3六歩△6二玉▲4八銀上」となっていて、手の順番を変えてある意味がわからない。
p.199:冒頭の△3八銀成→△3八銀引成が正。
【現在の棋力】将棋ウォーズ:(10分)初段(3分)初段(10秒)初段、将棋倶楽部24(2014年10月で引退):12級(最高R503、現R399)、