『本の雑誌』2014年5月号
内田剛さんの「重松清は人生の師である!」が掲載されている(全4ページ)。
『本の雑誌』では、作家別に10冊ピックアップするならばこれだという「読み物作家ガイド」をやっていて、その重松さんの回。
ちなみに、コーナーは『この作家この10冊』として本にまとまっている。2015年8月の刊行。まだ5年しか経っていないけど、古本も含めてやや入手が難しい模様。現在は続編の『この作家この10冊 2』も出ている。
内田さんのチョイスは本なりバックナンバーでお読みいただくとして、「私が10冊セレクトするならば」を考えてみたい。ベスト10ではなく、重松さんがどういう物書きかを把握するための10冊という観点で……。
まず『きよしこ』か『青い鳥』。
ともに吃音を題材にした小説で、前者は子どものお話。後者は吃音の先生が中心になっている。
重松さん自身も抱える症状だけに思い入れも深いようで、1冊だけ自作を選べといわれたら『きよしこ』を棺に入れてほしいとよく話している。私は『青い鳥』のほうが好きかな。
次にエッセイ集の『セカンド・ライン』(文庫版は『明日があるさ』)。
物書きとしてのこだわりとか、自分の身におきた重要な出来事など、重松さんを形作っているものがわかる。
他の作家でもそうだけど、小説をメインに書いている人の場合、エッセイ集はそんなに数が出ていない。だから、それを読んで人となりを知るということを私はよくするけど、みなさんはいかがだろうか。
重松さんの場合、エッセイ集は本書の後に『うちのパパが言うことには』が出ている。その他に夕刊紙の連載をまとめたものもあるけど、様々な媒体からの寄せ集めという意味では2冊になる。『うちのパパ……』は『セカンド・ライン』とは性質が違い身の上話があまりないので、10冊には入れない。
続いて小説をみっつあげる。
ひとつめが『十字架』。私は1983年生まれ。同世代以上の方ならば1994年に愛知県で起きたいじめ自殺事件は記憶に刻まれていると思う。重松さんはNHKの番組で、亡くなった方のお父さまに取材をしている。それが本作の出発点。
作中でもいじめ自殺が起こる。残された者たちは何を思い、どのように生きていくのか。
いじめは他の作品でも扱っているけれど、『十字架』は重松さんの意地が見られる。安易な娯楽作品にはできない、お父さまに失礼なものは書けないという……。
ふたつめが『卒業』。4編からなる中編集で、表題作では『セカンド・ライン』で何度も触れている友人の自殺を扱う。その意味で、はずせない作品。
みっつめが『定年ゴジラ』。ニュータウンは舞台としてよく登場する。そこからひとつ選ぶなら本作かなと。現に住んでの実感が作品をリアルにしただろうし、内容的にも今に連なる問題で読まれる価値がある。
以上で半分の5冊。
この先は悩ましい。ノンフィクションや官能小説も書いているので、それらを入れてみたい気もするし、幅が広いことを知っておくだけでいいかなとも感じる。
すでに取り上げた以外で小説をあげるならば、デビューから3作目まで(『ビフォア ラン』『私が嫌いな私』『四十回のまばたき』)のどれかを入れてみたい。というのは、4作目以降はモデルチェンジをしているから。作家にならずフリーライターのままで書いた、みたいな表現を本人はしていたと思う。
ただこれも同じで、そういう時代があったとおさえておけばいいのかなと。
残った小説から話題作をピックアップすると、『ナイフ』『エイジ』『ビタミンF』『流星ワゴン』『疾走』『その日のまえに』『きみの友だち』『とんび』あたりだろうか。あとは話題作ではないけれど『小さき者へ』は高く評価している人が多いように思う。私の観測だとね。
正直、これらから取捨選択をするほどの熱い気持ちは持っていない。あえていえば『疾走』はあまり含めたくない。というのは多芸枠のひとつである気がするし、本作が非常に注目を集めたせいで、同時期に刊行の『哀愁的東京』が憂き目にあった気がして嫌なのだ。まあ、鈴木成一さんがインパクト抜群の本を作ったことをほめるべきか。
『きみの友だち』は入れたい。また私の観測になるけど、この本に救われたという若い方は多いようで、影響力を考えるとはずせないのかなと。
本作は単行本が出て3年後に映画が公開された。読者には評判がよろしくなかったんだけど、私は逆に原作を深く理解している映画だと感じた。彼らの読んだ『きみの友だち』と私が読んだそれは別物だったのかなと思ったりもする。
最終的に以下の10冊を選んだ(単行本での刊行順)。本文中で書いたけど、後半で列挙した小説からの取捨がしづらい。よって『きよしこ』と『青い鳥』は両方入れて、ノンフィクションと官能小説も1冊ずつ含めることにした。