『あすなろ三三七拍子』

3月に毎日新聞社から刊行予定とのこと。初出は『サンデー毎日』2005年2/13号から2006年4/9号。
下のblogは、この小説の実名モデルとなった山下正人さんらが、著者と会食をしたときのもの。
http://masato.yama-chan.jp/?eid=320193

『きみ去りしのち』(文藝春秋、2010/2)

亡くなった人、そして死という事実との付き合いが描かれた長編小説。その付き合いは各地を訪れることでなされていて、ロードノベルの様相もある。
時の経過は何をもたらすか。そういう観点で読めば、『十字架』とは裏表といえる。しかし、本書の評価は『十字架』に遠く及ばない。描写が表面的で、感情の奥底が書かれていないからだ。そのため小説としての面白さに到達できていない。期待していただけに物足りなかった。
以下、個別的にいくつか言及したい。まず第7章の明日香のセリフ。
「だって学校って、ひとりぼっちにならないための知識とか人間関係のコツとかを教えてくれるわけだから、要するにひとりぼっちになれない子のための場所じゃん」(p.259)
たしかに学校とは、集団生活をするところである。しかし、コミュニケーションの方策を教えてくれる場所とは思わない。せいぜい相手を傷つけない話し方とか、そのぐらいだろう。明日香が上記のように感じているだけともいえるが、私は著者の強引さを感じた。
反対によかったのは、第6章と9章。6章には著者がドキュメンタリー番組*1の取材で経験したことが盛り込まれている。下は、親と暮らせない子どもを預かっている柳井さんの言葉。
「怒らせることでしか、おとなや友だちと付き合えない子どもって、いるのよ」(p.229)
なるほどなと心にしみるフレーズだった。そしてそういう部分が多く見られないのが残念だった。

*1:NHK教育の「子どもサポートネット」だったかな。