藤原章生著『絵はがきにされた少年』(集英社、2005/11)

第3回開高健ノンフィクション賞受賞作。著者は毎日新聞記者で、本書は5年間にわたるアフリカ特派員の経験をもとにして書かれた作品。構成としては全3部の計11章からなっていて、内容は章ごとにわりと独立している。
とてもすばらしいものに仕上がっている。そうなったのは、経験の豊かさもあるだろう。しかし、私は著者の性質によるところが大きいと思う。その性質とは、ひとつはsensitiveであること、もうひとつはときに相手をむっとさせるような質問を意図的に繰り出すしたたかさだ。
sensitiveというのは「感じやすい」。つまり、些細なことに気づく。それは、自分の心に起こる感情はもちろんのこと、相手の表情などについてもいえる。この性質ゆえに、本書はより「真」にせまったものになっていると思う。
もうひとつ、したたかに質問を繰り出すというのはそのまま。メディアがインタビューというものをするのは、なめらかに話をさせて気持ちよくなってもらうのが目的ではない。もちろん、真実の追究が目指すところである。そしてその真実とは、ときとして怒りのなかにあるのではないか。著者がそこまで考えているかはわからないが、少なくともかなり自覚的に質問を投げかけていることは、本書からも明らかである。
著者についての評価に収拾をつけられなくなった。最後に、本書でもっとも印象に残ったシーンをあげる。それは表題作「絵はがきにされた少年」において、著者が老教師から「あなたたちは何でも知ろうとする。だけど私たちにはそれができない、なぜか」と問われるところ。老教師の答えは、「知りたがりではないから」というもの。多くを知ればものの見方も豊かになるかもしれない。だけど、そうでなくとも生活は営んでいけるんだ、と。

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ちょっとショックだった。私は好奇心でもってこのような本を読んでいるわけだけど、もっと強い理由が必要なのかもしれないな。そんなことを思った。