大隈秀夫著『レオの時代 翔る! 西武ライオンズの咆哮』(こう書房、1988/2)

森監督のもと、日本シリーズ連覇を成し遂げた後に出た本。内容的には、何人かの選手を取り上げ、試合中のエピソードなどを振り返るというもの。
著者は特に野球関係者というわけではなく、フリーのライター。したがって、「この本ならでは」の記述はあまりない。それでも、いくつか印象に残ったところをピックアップしておく。
まず、伊東勤をめぐるこのようなくだり。彼が入団したころは、1球ごとにベンチの森(当時ヘッドコーチ)からサインが出ていた。実際にボールを受けているのは自分なのに、思い通りにできない。反発を感じた伊東はあるとき、勘で勝手なリードをした。結果、打たれてしまう。

「かっこいいと考えて出したリードの指先がいかに危険であるかを思い知らされた。そのときから僕はロボット役に徹しようと決心した」
(p.89)

伊東は自らの監督時代、森野球とは距離を置いていたような感がある。それは、ロボット役であり続けたことへの抵抗なのかもしれない。

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次は「新時代の球団経営」という章から。

堤は(中略)所沢の西武球場一帯をライオンズ・タウンにする構想を明らかにした。堤の決断は速い。実行力もある。自ら西武鉄道本社へ赴き、隣接地に客室二百くらいのホテルを建設する決定を行った。
(p.166)

どうなったのだろう。この構想は。

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最後は秋山幸二について。

六十二年は秋山にとって忘れられない年になる。巨人との日本シリーズで優勝した日に初めての子宝を得た。男の子で拓也と命名する。
(p.63)

2000本安打の際、お子さん(真凛ちゃん)が花束をプレゼントしたのはまだ記憶に新しい。だが、前妻との間にもお子さんがいたのか。ふーん。
もうひとつ。私設応援団の方(野俣利夫さん)の話が5ページ(p.22-26)。本に限らず、応援団がメディアに出る機会はあまりないので、貴重かもしれない。

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1988年2月25日第2刷発行。

洲之内徹著『復刻 棗の木の下/砂』(『en-taxi』10号別冊付録)

収録されているのはふたつの中編。いずれも、設定や物語の形式的には重なっている。

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そういえばこんな本があったな、ぐらいの気持ちで読み始めたのだが、どっぷりとのめりこんでしまった。
何が面白いか。主人公が、自らのうちにせこい了見を抱いているところ。そして、そのせこさ描写のすばらしさ。やっぱり、いやらしい話というのは読んでいて楽しいのだ。

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だぶる部分もある2編だが、自分とせこさとの関係に注目すると違いが見える。「棗の木の下」の古賀は折り合いをつけられている。一方「砂」の世古は、せこさを*1乗り越えんとして苦悶する。

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最後に気になったところをふたつ。

当時、日本軍の占領している都市から、適地区への物資の流出するのを防ぐために(略)
(p.109)

適地区→敵地区?

男は腹を波打たせ、むせかえり、激しく首を振って、鼻孔に流れこむ水から流れようとし、呻き声とも喚き声ともつかぬ奇妙な声を立てるが(略)
(p.132)

水から流れ→逃れ?

*1:くだらない冗談みたいになってしまった。