目黒考二著『笹塚日記 ご隠居篇』(本の雑誌社)

彼の書く書評は、別にたいしたことがないと思う。しかし、世ではもてはやされている。なぜだろう。私はふたつのことがあげられるように思う。
まず、締め切りに対するスタンスである。『笹塚日記』前3冊のどれかに、次のような趣旨のことが書いてあった。
編集者は、多少の余裕を持たせた締め切りを書き手に通知する。たとえそれに遅れたとしても、まだ大丈夫だ。しかし、書き手の誰もがそう思って締め切りに遅れていたら、雑誌はうまく回らない。すべての原稿を一気に処理することなんてできないのだから。そのことを身をもって知っているので、自分は締め切りを守る、と。
書中のあちこちに、「スケジュールが押している」という記述が見られる。だけど、別に怠けてるわけじゃなくて、彼の締め切り厳守のスタンスが、「スケジュールが押している」と思わせるのだろう、きっと。
次に、もてはやされる理由のもうひとつ。声である。まあ、書評に声はないので、おもに対談とかになるけど、『SIGHT』編集部の高野夏奈さんはこう書いている。「早口ですが発声がしっかりしていて聞き取りやすい&わかりやすい。テープ起こし業界で人気投票があれば上位に食い込む美声の持ち主でしょう」(p.126)。中場利一も声がいいことは認めている(p.186)。
そうか。テープ起こしでちゃんと文字にできなかったら、話がいくらうまくても意味ないもんなあ。こういうのは考えたことがなかった。
彼の声を知らない私、一度、TBSラジオを聞いてみようと思う。
以下、メモ兼雑記。
p.84:胃が軟弱になったため、「キッチン南海の油ものを食べられなかった」とある。食べたいものを食べられないって、つらそうだなあ。いつか私にもそういう時期がくるのか。
p.149:新百合ヶ丘快速急行に乗り換えたら、登戸で降りたいのに、下北沢まで連れていかれたという話。以前、角田光代も同じようなエピソードを披露していた。きっと、世の中にはもっと潜在的な被害者がいるんだろうな。別に小田急は悪くないだろうけど。
p.153:石原千秋を女だと思っていたそう。たしかに女性的な名前だけど、私は最初から男だっていう認識だったなあ。なんでだろう。