『小説新潮』7月号掲載の選評が生々しい。白石一文によると、選考委員は2作同時受賞の結論を出したのに、佐藤隆信(新潮文芸振興会理事長)が1作へ絞れという意向を示したのだそう。その結果、候補作中で唯一、新潮社から刊行されている『楽園のカンヴァス』が受賞作となった。白石は、受賞が1作のみということには理解できるが、そういう考えがあるなら、事前に委員へ伝えておくべきだと書いている。
同じく委員である佐々木譲の書き方はまた違う。1作に絞る説明は最初にあった、そして選考委員の間でも2作同時受賞にまとまっていたわけではないと。
ちなみに石田衣良によると、最終的には女性ふたり(角田・唯川)と佐々木が『楽園のカンヴァス』を推して、3-2になったようだ。
私としては、まずプロの書き手であり、読み手である人間たちが、1作だけ新潮社という理由でなびいていないのを祈りたい。
1作に絞れと求めるのはわからなくもない。しっかり議論をつくせということでもあると思うから。しかし、それならば今までも同じスタンスを採っていなければならない。過去にあった2作受賞の回と今回の整合性をどうやってつけるつもりなのだろうか。
文学賞は、もはや選考の過程を丸ごと中継するぐらいでなければ、信用されないと思う。