落合博満著『なんと言われようとオレ流さ』(講談社、1986/4)

刊行時期は、再びの三冠王に輝いた翌年のシーズン早々に当たる。内容としては、野球人としての生き方、打撃理論、これまでの人生、再婚を境に変わった生活など。
どこも面白いのだが、私はプロ入り以前の部分を楽しく読んだ。落合は、いわゆるエリートコースを歩んでいない。名門ではない高校時代、練習も学校もイヤだった彼は、「弁当持って、朝からずっと映画館通い」「映画を、年間百本は見た」そうである(p.59)。
大学へは進学したが、先輩を立てる野球部の体質が気に入らず退部。のみならず、大学とも別れを告げる。

野球部とともに大学も辞めたのはいいけれど、行くところもやることもなかった。
毎日あっちをウロウロ、こっちをウロウロ。犬を引っ張った西郷さんの銅像をながめながら上野公園で寝たこともあるし、日比谷公園に一泊させてもらったこともある。
(p.65)

まるでホームレスかのようである。たくましい。
その後は秋田に帰り、お兄さんが支配人をしていたボウリング場でバイト。2年して、社会人の東芝府中入り。プロ生活を始めたときは、25歳になっていた。なんとも遠回りな人生である。
「オレは、プロ入りが遅かったから名球会なんて関係ないしな」(p.171)と信子夫人に漏らしたのも納得。