美山和也、加藤慶、田口元義著『プロ野球戦力外通告」』(洋泉社新書y、2010/3)

「『屈辱』『葛藤』を乗り越え男たちは第二の人生に挑む!」と帯文にあるとおり、「その後」にも焦点があてられている。
全6章。登場するのは順番に、野口茂樹(元中日・巨人)、川口友哉(元オリックス)、大野倫(元巨人・ダイエー)、吉岡雄二(元巨人・近鉄楽天)、正田樹(元日本ハム阪神)、寺本四郎(元ロッテ)。
このなかで圧倒的に面白いのが、大野の章。ホークス時代、王監督にファーム行きを通告された。それは見逃し三振のまずさを説くものだった。
「ボールというのはプロの世界では金だ。お前はあの試合で、目の前を通り過ぎる金に手を出さなかった。手を出したからといって打てるかどうかは分からないが、お前は打とうともしなかった。それは、『プロ失格』と言われてもおかしくないんだぞ」(p.86)
現在、少年野球にもたずさわる大野は「見逃し三振は絶対にやるな」と子どもにいうそうだ(p.97)。これを読むと、野球の見方、見逃し三振の見方が変わらざるをえない。
ほかにも興味深い記述がある。たとえば「ファーム慣れ」について。言葉として聞いたことはあるが、ファンには実際どういう状態なのかわかりづらい。そのへんが書かれている。ジャイアンツでは、1軍にあげられても出番がなかった。しかし2軍では4番で頼られる。だったら下で試合に出たい。そういう心境になってしまったという(p.83)。
それがホークスに移籍して一変。ジャイアンツはファームでも地方にいけば、何千・何万のお客さんがいる。しかしホークスでは、2軍に人などいない。それで1軍にいる意味を理解した(p.87)。
9月になると、脳内でクビになる選手を予測するという記述もリアルだなあ(p.88)。ファンも選手も変わらない。

      • -

ほかの章で面白かったところをひとつだけあげると、寺本がバレンタインに打撃のアドバイスを受けるシーン。それは通訳を介してなされるのだが、タイムラグがうっとうしくなって「どうでもええわ」といってしまった。しかし言葉のわかるボビー、こう返す。「その日本語はダメです」(p.185-186)。あなどれない男だ。

週刊新潮」編集部編『黒い報告書2』(新潮文庫、2010/3)

新潮文庫のオリジナル作品」と奥付にある。1と作品が重なっていないのはもちろんだが、『週刊新潮別冊 黒い報告書』(2006年2/26号)と共通しているのもひとつだけか(大ざっぱなチェック)。わりと最近のものが多い。
通読してみると、書き手が誰であっても、本文を貫くトーンは意外に変わらないなという印象を受けた。