『いつも旅のなか』(アクセス・パブリッシング

ジャンルはなんていえばいいんだろう。紀行文集かな。『生本』という雑誌に連載されたものに、若干の書き下ろしを加えて、これまで旅してきた場所の思い出を綴っている。
旅について書くというのは、ひとりよがりの記録になってしまう危険性を孕んでいると思う。だけど、この本はそんなことにはならず、率直な思いの数々が読むものを楽しませる。たとえば、こんな記述。
「おっしゃ、のぼったるで、と、みずからを鼓舞するために関西弁でつぶやき、私はメテオラ方面へと歩きはじめた」(p.54,l3-4)
記録じゃなくて、何を感じたのかがちゃんと書かれているから、読んでて飽きないのだと思う。
あと、これはうまい。
「この犬たち、それはそれは凶暴で、お出かけファッションで歩いている日本人女にすさまじく吼えかかってくる。おまえ何何何何何何、山羊盗むのか盗むのか盗むのか、ここで何何何何何してんの、山羊目当てか山羊目当てで歩いてんのか、と、四、五匹で私を取り巻いてそりゃあもうすごい騒ぎ」(p.57,l6-9)
何を漢字で5個も6個も続けると、字面が真っ黒で、見ていていやーな感じが漂ってくる。旅の素晴らしさを教えてもらったと同時に、文章としてどう読ませるかまで参考になってお得な本だった。

『東京人』5月号

直木賞受賞を予想していた(id:amanomurakumo:20041216)永江朗によるインタビュー掲載。『対岸の彼女』(文藝春秋)に出てくる地名や、作品によく登場する中央線沿線のことなど、私からすると、痒いところに手が届く内容になっている。
角田さんが「中央線はお手の物です(笑)。たとえば高円寺を選んで住む人間と西荻を選んで住む人間は書き分けられる」というのを見て、さすが職業作家だなあと感じた。

野性時代』5月号

こちらもインタビューが載っている。小説に失恋を盛り込むことについての話がメインだったけど、「周囲の人が死んだ経験のない人は、自分が絶対死なないと思っている」という指摘に共感。というのは、両親、祖父母のうち、誰も死んでいない私がそう感じているから。