豊島ミホ著『青空チェリー』(新潮社)

構成は全3編からなっていて、第1回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞受賞作の「青空チェリー」に加え、「なけないこころ」、「ハニィ、空が灼けているよ。」の2編が、書き下ろしで収録されている。
「青空チェリー」は、女の子が予備校の屋上から、ラブホを覗き見するという話。ストーリー的には、ほんとうにただそれだけなんだけど、表現の仕方に面白みがある。
「なけないこころ」は、5年間忘れられなかった彼との再会を果たすにあたり、「性のテクニックを磨こう」と主人公の女の子が考えるところから始まるお話。まあ、なんともない青春小説。
ところが、三編目の「ハニィ、空が灼けているよ。」は前二編から一転して、題材は戦争。主人公の女性は、恋人関係にあった教授から、「都」では戦争が始まるので、疎開するように命じられる。田舎に帰った女性は、そこで彼氏を作るが、教授のことを大切に思う気持ちから、その彼氏とは「ハニィ」「ダーリン」と呼び合うことに。田舎にいても「都」にいる教授から、手紙と花束が送られてくるので、「都」は安全なんだ、と女性は思っていたのだが…。
ただ性を軽やかに描いていた前二編とは違い、すごい衝撃を受けた。展開の面白さも、あとはこの世代が戦争というものに真正面から取り組んでいることも。