『空の拳』(日本経済新聞出版社、2012/10)

タイトルは「そらのこぶし」と読む。そりゃそうだろと思うかもしれないが、連載時とあるブログ*1に「くうのこぶし(たぶん)」と書かれていた。
「いやいや違うよ」と連載開始の告知を見直した私。しかし「こぶし」というルビはあれど、「空」のほうは何もなし。要するにどちらともとれる状態だった。
人物名にもいえるが、角田光代はこういうことが多い。読者としては、読み方が定まらないのは正直、落ち着かない。
本書の扉には「そら」とルビがある。それでこの話は終わりかといえば、まだ続く。主人公「空也」(くうや)の名前も、連載時はルビなしだった(本書はあり)。あだ名で「クーちゃん」と呼ばれているが、たとえばガンちゃんというあだ名の岩本さんだっているわけで、やはり連載時はもやもや感があった。

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恨みはこのへんにして本の感想を書くと、率直に面白かった。連載時は惰性で読んでいて、面白いといえるかは微妙だったが、本書は満足いく出来になっている。
書籍化にあたっては、「試合のシーンを1/10ぐらいに削った」そうで(編集者談)、それが奏功したと思う。ひとつの試合が、ボリュームはあっても一息に読める。緊迫感のただなかにいる雰囲気を味わえた。
著者のうまさも感じた。たとえば嘘を発覚させることで、追い詰められたときの感情を描いてみたり、あるいは日本の頂点をうかがうボクサーだけでなく、そこまでには至らない選手を対置させたのも……。