福満しげゆき著『僕の小規模な経済学』(朝日新聞出版、2013/2)

帯の言葉を借りると、「人気漫画家が説く”ニッポン経済論”」。トピックは家電業界だとか、就職事情、原発など。日本経済論と漢字で書くほどの硬さはない。エッセイ集のように気楽に読める。
全体の感想から書くと、個人的には面白かった。ただし、その面白さは既存の読者向けにとどまっている。福満のことを深く楽しむにはいいが、一冊の本として全体を貫くものがない。だから、福満を知らない人が娯楽で読むなら漫画をすすめる。
しかしながら、経済と銘打った本だから出てきたものはある。たとえば、家電の話で世界市場で通用するものを作れとはよくいわれるが、著者は「そんなにうまくいったら苦労しない」「とにかく言うのは簡単」と書く(p.33)。たしかにそうなのだろうと私は思った。これだけいわれてて状況が変わらないのだから。
あと、興味深く読んだのがモノを買わない現状を分析した箇所(p.41-42)。価格.comなどで製品スペックが容易にわかる。「この程度なら買い替えなくていいや」というケースもよくある。だから、一定サイクルで新製品を出し、宣伝によって買い替えをうながすという手法が通用しなくなったと。
考えてみると、車はその象徴的な例だと思う。走るという機能はなんら変わらないし、燃費が向上したといっても、その燃費が虚飾であることは誰もが知ってる。若者の車離れはよくいわれるが、買い替え需要の落ち込みも見逃してはいけないのだろう。

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余談だが、本として非常にマズイのが総理大臣の苗字を「安部」と誤植している点(p.103、104、131)。さらにネットで検索したら、絢香が「綾香」というのもあるそうで……(p.141)。新聞であればありえない誤り。やはり分社化して、このへんの力は落ちたか。