横山秀夫著『64(ロクヨン)』(文藝春秋、2012/10)

よのなかの見方が変わる。そういう本はたまに出会うが、小説では初めてかもしれない。
主人公の三上は県警の広報官。記者対応を担っている。クラブの連中に、どこまで情報をくれてやるのか。どうすればいきり立つ彼らをなだめることができるのか。もちろん三上の自由にはならない。上の意向もふまえる必要がある。
人間同士の力関係、警察内部の主導権争い、あるいは三上が抱える心の葛藤。せめぎあいがとことん突き詰められていて読ませる。
よのなかの見方が変わると書いたが、一番の理由は事件・事故報道がどうやって成っているのかうかがえたから。広報がクラブにもたらす情報もあれば、そうでないものもある。その場合、出どころとして考えられるのは……。新聞記事が今までより深く読めそうだ。
あとは会見にどのポストの人間が出るのか、そのことが警察内部で持つ重要性も見えた。いや、そもそもポストがどう設定されているのかも知らなかった。そこからして勉強になった。
もちろん、ストーリー面でも圧巻の一言。騒動だけが起こっているさなかに、事件が発生。さまざまな糸が合わさっていくさまには感心するしかない。