全4篇。最初のひとつを読んだあと、3年ぐらい放置になっていた。
4篇はいずれも登山を題材とし、主人公は著者その人を思わせる。中年になって山登りを始めた彼は、山とのかかわりのなかで、過去の人生を振り返り、この先の人生を考える。
噴火があった後だけに、御嶽山が出てこなくとも、からめた読み方をしてしまう。たとえば、退避壕についての記述。
「新しげな穴が開き、ひしゃげていた。(略)修理しないまま放置してあるのは、予兆なき小噴火を特徴とするこの活火山の恐ろしさを、危険域に侵入した登山者たちに見せつけるための管理官庁の見事な演出なのではないかと思わせる」(p.46)
災害がなければ気に留めなかった気がする。
また、退避壕については以下の記述も。
「大噴火で火山弾が降ってくるのを想像する。(略)ここに入りきれないほどの登山者が押しかけたら、場所を譲るだろうか。(略)状況がすべてなのだ、きっと」(p.179)
先の噴火でも、建物のひさしの下に人が押し寄せた、という話を聞いた。そこで生死が分かれたのかは知らない。ただ、主人公がいうように状況がすべてなのだろう。船のように、長がいるわけではないのだから。