窪美澄著、重松清解説『ふがいない僕は空を見た』(新潮文庫、2012/10)

期待にたがわず面白かった。形式は「連作長編」。第1話の「ミクマリ」が「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作。あとの4話は、視点を変えて物語が進行していく。
「ミクマリ」は、高校生の主人公がコスプレ女に役を与えられ、セックスをする話。主人公の母を助産師とする設定がうまい。つまり性と生。わかりやすいのがマイナスになる危険性もあったが、親の職業がもたらす影響をよく書けていると思う。
以後の各話も不妊、カルト、老人徘徊、育児といった今風の題材で読ませる。現実味が感じられるのは、著者の経験がバックになってるところもあるからかな。特に助産院の描写なんかは。
重松清の解説は、先に目を通したときはよくわからなかったものの、読後に読むと腑に落ちる。著者は「ただ生きて、ただここに在る」ことを「まるごと肯定」していると。著者が自分の価値観をにじませることがない。だから、物語にひたれる。