橋本倫史著『市場界隈 那覇市第一牧志公設市場界隈の人々』(本の雑誌社、2019/5)

来月半ばに現在の建物での営業を終える市場。そのお店にたずさわる人たちへ話を聞いた本。取り上げられているのは全30店舗。それに加えて市場組合長の話が巻末に収録されている。

お店の人の来し方や市場のあゆみも興味深く読んだけど、私は話のなかに沖縄の生活がにじんでいるところを特に楽しんだ。

たとえば飲み屋のスタッフさんが模合(もあい)という習慣を紹介している。仲間うちでお金をプールしておいて、順番にまとまった額を受け取るのだそう。

沖縄の暖房事情は驚きだった。ゲストハウスのオーナーさんは火鉢に当たっている。冬でも暖かいのにそんなものが必要なのかとびっくりだし、オーナーさん自身も来県当初はコタツやストーブが使われているとは思わなかったそう。だけど「身体は環境に慣れる」のだという。

私は沖縄へは二度いったことがある。観光客として見ると風景や気候が素敵なところだけど、本書からは生活面のユニークな部分をうかがうことができ、また違った沖縄の面白さに触れられた。著者が県人ではないから書けたことも多いと思う。

ちなみに当の市場は何度か前を通ったものの、なかをのぞいたことはない。内部の雰囲気を知っている人が読めば、反応するポイントも変わってくるだろう。というか営業終了まで半月あるわけで、自分もそちら側になるチャンスはあるんだよな……。

本書のもとになっているのは「WEB本の雑誌」での連載。これが18店舗分ある。残り12店舗は本書での追加。ただ、著者は連載のまえに「市場滞在記」という読み物をnoteで書いている。追加12店舗のうち5店舗ぐらいはこちらに登場していた。もっとも内容的には大幅に足してある。

「市場滞在記」は滞在1日目2日目3日目という形で1日単位の記事になっていた。すごく分量が多くて読むほうもちゃんと向き合うことを求められている感があった。それでも記事の長さをネガティブにはとらえなかったし、むしろ読後の満腹感を私は好意的に思っていた。

のちに「WEB本の雑誌」で「市場界隈」が始まり、そこでは店単位での記事になった。分量的に読みやすくなったのは間違いない。

しかし「市場滞在記」にあった流れはなくなった。どういう順番で店をめぐったのか、時間帯はいつごろだったのか。そんな情報が読むときの助けになることも多いので、連載のスタイルを見たときはさみしさもあった。

ただこの手の情報は著者個人に属するものだから、それを反映させると記録というところからは遠ざかってしまうのかなとも思っている。