羽根田治・飯田肇・金田正樹・山本正嘉著『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか 低体温症と事故の教訓』(ヤマケイ文庫、2012/8)

Wikipediaで興味をもって購入。細部を知ることは登山をしない私にも有益だった。
まず装備不足について。これは自衛隊・警察の不用意な発言から生じた報道だとしている(p.78)。道具はもっていても使えるとは限らない。強風と雨のなか、ザックから着替えを取り出せば、中身をぬらすことになる。立ち止まって冷えもするだろう。当然、着替えるときにも体がぬれる。
参加者のひとりは「着られるような状況ではなかった」という(p.347)。私には気持ちが分かる。日常生活でも似たようなことがあるからだ。
また本書では、食事に問題があることを知った。エネルギー消費にたいして、摂取量が全然不足していたそうである(p.285)。持っていく食料を増やせば荷物が重くなる。それは避けて通れない道だ。事前準備で正しい量を考えることが大事になる。登山でなくても同じような場面はありそうだ。
最後に本書で疑問に思った点。大量遭難を起こしたツアー以外に、単独で入って死亡した男性(詳細不明)、強風で登頂断念のクラブツーリズム、問題のツアーと同コースを無事下山の伊豆ハイキングクラブがいた。このうち伊豆ハイキングクラブについて、第6章執筆*1の羽根田は指摘する。
「途中でメンバーのひとりが低体温症に陥り、一歩間違えば遭難事故につながるところだった。そうならなかったのはただ運がよかっただけで、その判断・行動については褒められたものではない」(p.325)
「運がよかっただけ」というのは、いくらなんでも乱暴だろう。パーティーの人数、事前準備、食事量、スキル、コミュニケーション等々、結果を分けるものはあったと思うのだ。

*1:本書は共著という形のため、筆者によって少しずつ意見が違うところもある。