雨宮処凛著『アトピーの女王』(光文社知恵の森文庫、2009/12)

自身のアトピー経歴を綴ったエッセイ集。症状のことから、様々なアトピービジネスまで。
ほとんど単語としてしかアトピーを知らなかった私は、自殺や子殺し、そして民間療法によっては病死にさえ至っているという現実に、ただ驚くしかなかった。あるいは、アトピーで莫大な金を使わざるをえないことにも。
それと本書は、アトピーが人間関係にもたらす例を書いているところがいい。著者には目の悪い彼氏がいた。アトピーのことは知らず、肌荒れを指摘されてはごまかす日々。しかしあるとき、彼氏がメガネをかけようかなといいだす。それは困るので、「メガネかけてる人嫌い」だという。彼氏はじゃあコンタクトがいいか、となる。手段がどうであれ、視力が増してはやばいので、こんどはコンタクトの危険性を彼氏に説く……。私も耳が悪いので、適当に話を合わせなきゃいけない大変さが、よくわかる。
セックスにも問題は起こる。肌の状態が悪くて拒むと、相手を嫌っていると誤解される。当然、仕事にだってトラブルは生じる。皿洗いは肌につらく、雑貨屋で働けば出血で商品を汚してしまう。
救いのない現実。しかしどうしようもないことを知れば、少しはよく生きられるかもしれない。そんなトーンで書かれた1冊。全日本人必読。

栗原美和子著『太郎が恋をする頃までには…』(幻冬舎文庫、2010/2)

部落出身の男性と結婚。事実を明かすこと、明かさないこと。理解を得ること、理屈が正しくても、どうにもならないこと。そういった思いの数々が綴られている。たいへんに読みでのある作品で、部落問題についてもっと知りたくなった。

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親本は2008年10月刊。そのときうった広告の効果が消えないうちに、ということだろうか。他社と比べて幻冬舎は、そういう文庫化が多い印象を受ける。
親本の表紙は村崎さんと栗原さんの写真だったが、文庫版は一転、花(?)が描かれた地味なイラストになっている。