穂村弘著『現実入門 ほんとにみんなこんなことを?』(光文社)

穂村さんのことは、日本経済新聞の夕刊の曜日替わり連載「プロムナード」(2001年1月から6月)で知った。なんでこんなに自虐的なんだろう。そんなことを思いながら、毎週読んだ。
それ以来、新聞等で彼の名を見るたびに「あっ、自虐の穂村だ」と反応するようになった。特に、日本経済新聞に書いた「『ね』の未来」というエッセイ(2004年8月8日付朝刊)は名作だ。切り抜いて何度となく読み返した。
それでも、著作を読む気にはならずに、きょうまできた。単発ならいいけど、1冊通して面白いもの、値段に見合うものを書いてるのかなと疑問だったからだ。
『現実入門』を読んだきっかけは、6/16に角田さんとトークセッションをするから。さすがに何も読まないで参加するのはまずいだろうということで。
この本は『小説宝石』初出のエッセイ集で、人と比べて知らないこと、体験したことが少なすぎる穂村さんが、未知のことにチャレンジして、その感想を綴ったものだ。競馬場、相撲観戦、占い…。
初体験を重ねるなか、書評委員会で同席した角田さんが、この連載を愛読しているというので、ネタが切れかかっていた穂村さん。次に何をしたらいいか聞いてみる。まあ、その結果がどうなったのかは本を読んでもうらことにして、こういうことがあったので、角田さんとのトークセッションが開かれることになったんだと思う。
とても愉快な本で、あっというまに読み終えてしまった。なんで面白いんだろう。文章がうまいから?と考えてみたけど、ちょっと笑えるたとえが使ってあるぐらい。
それで思い当たったのが、彼を一段低く見ているのではないかということだ。「あっはは、あんたこんなこともやったことないの?」「本当にそう信じてたの?バカじゃない?」みたいに。だから、自分が文章を支配しているかのように、愉快に読める、と。そのことに気づき、ものすごい悪趣味な読書を強いる本だなと思った。単に私の読みがひどいだけかな。
鈴木成一デザイン室によるブックデザイン。素晴らしいお仕事。