放火事件を題材にした三島由紀夫の『金閣寺』、水上勉の『五番町夕霧楼』『金閣炎上』。それらに書かれた放火犯がいかに異なっているかを探り、作家ふたりの相違に目を向けるエッセイ。
読み始めるまで、半年以上かかってしまった。それには理由があり、上記3冊を先に読むべきかわからなかったから。結論からいうと、未読で問題ない。本書で興味をもって、3冊へ進むのもありだろう。
感想としては、陳腐な言葉だが面白かった。酒井さんは解き明かしの合間に、さまざまな場所をたずねている。たとえば放火犯の生家であったり、水上行きつけの料理屋であったり……。その行為が、ともすれば退屈な文学の世界に、いろどりをもたらしている。
作家について知ると同時に、作品舞台をたずねる面白さがわかる1冊だった。