リチャード・バック著、法村里絵訳『フェレット物語1 海の救助隊』(新潮文庫、2009/7)

フェレットたちによるレスキュー隊が、海難事故に立ち向かう。
子ども向けの話かなと思うし、実際にストーリーもやさしい。
しかし、そんななかにときおり、幼児世界から離れた記述が見られる。
「だいじなのは、美しさを表現することよ」(p.137)
「わたしたちは愛を――そして美を――表現するためにここにやって来た」(p.149-150)
ここだけ引いてもわからないからも知れないが、明らかに話の展開から浮いているのだ。
わけがわからない。そういうところはさっと読み飛ばすことにした。それでも十分に楽しめるのだが、考えながら読み進めたら、もっと楽しめるのかもしれない。
全5巻からなるシリーズ。重松清が通しで解説を担当。

片田珠美著『無差別殺人の精神分析』(新潮選書、2009/5)

6つの事件を取り上げて、大量殺人に共通する要素を指摘している。
いろいろ書きたいことはあるのだが、全体としてはあまりいい印象をもたなかった。
まずひとつめ。アメリカの犯罪学者いわく、大量殺人を起こす者には、共通する6要因がある(p.51-52)。だが著者は、それらを取り除くのは容易でないという(4章前半)。問題は、そこから先だ。
上述のように、6要因についての対策は無理としながらも、精神科医としての経験から、さまざまな提案をする。しかし、そこの部分と本書前半との結びつきがほとんど感じられない。つまり、ただ自分のいいたいことをいってるだけにしか思えないのだ。
それでは、この本の前半は何のためにあったのか。著者が好き放題いうための断りか?
ふたつめ。「わが子を殺戮者にしないためにやってはいけない十か条」(p.211)なる項目が、本編のラストに設けられている。
最後の最後まできて、なんで突然、親向けのアドバイス(すわなち読者の限定)をするのか。親向けに書き進められた本じゃないだろうに。
以上、批判おわり。
個人的に思ったことを書けば、自分と秋葉原事件の加藤は、分析を読むかぎり、きわめて似てるな、と。
あと、p.173の「成熟して大人になることそれ自体、誇大的な自己イメージを喪失していく過程でもあるのだから」という記述は、今後おりにふれて思い出すかもしれない。

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重松清が帯に推薦文を書いている。2009年7月10日2刷。