『希望ヶ丘の人びと』(小学館、2009/1)

重松清の描くニュータウンと聞くと、何やらシリアスな雰囲気を感じずにはいられない。帯にも「いじめ、学級崩壊、モンスター・ペアレント、家族の死」といった言葉が並ぶ。
しかし実際に目を通してみると、まったく重苦しいものではない。むしろ『いとしのヒナゴン』に連なるコミカルタッチの作品だ。
私はこの小説、主人公が塾の経営者という点を面白く読んだ。昨年12月、原武史さんとの対談のなかで、重松清はこんなことをいっていた。
「(自分が教えていた)塾は、(ほぼ同じ団地の人しか通っていない、ニュータウンの)学校と違って、坩堝になっていた」
これを聞いて、私は少し驚いた。塾講師をしていたことは知っていたが、その具体的な部分に踏み込んだ発言は、初めて耳にしたからだ。
本書は、そんな塾時代の実感に触れられる1冊だ。先に取り上げた言葉も、ばっちり活かされている。