参院補選候補の牧山弘恵さん(民主)

彼女にはいくつかの著作がある。その内容が、ちょっとこれはと思うものだったので、選挙が終わったらネタにしようと思っていたのだが、あす発売の『週刊現代』が記事にしてしまったようなので、店頭に並ぶ前に、書いておきたい。3冊あるので、まあ、発売順でいきたいと思う。

『30日間で立派な淑女になる方法』(1997/12、KKベストセラーズ

まず1冊目。帯文は「日・欧・米の上流階級を知り尽くした著者による最新最強のマナーブック」。
「テーブル・マナー」「ドレス・コード」「ワイン・テイスティングの奥義」といった項目ごとに、各4から8ページぐらいでエッセイ+アドバイスみたいなことを書いている。
一般人には関係のないことばかりでもなく、「会社訪問の際には、あらかじめお礼状を用意しておく。そして、訂正や書き足しをして、会ったその帰り道で投函する。驚くほど早く届くことで、好印象をもたれる」(pp.167-168から要約)というのは、日常生活でも、十分応用が可能だと思う。いろいろとためになり、また興味深くもある本だった。のちに、中国でも刊行されたとか。著者近影が美しすぎて、失神しそう。
ちなみにこの本、著者名は牧山 Ruby ひろえとなっているので、本名で検索しても出てこないと思う。たぶん。ISBN:4584158770

『「I LOVE YOU」を伝える1001通りの方法』(1998/12、KKベストセラーズ

上の本は牧山さんが書いたものだけど、こちらはシンディ・ヘインズとデイル・エドワーズという夫婦が書いたのを訳した本。さきほど同様に帯文を引用すると、「全米の若者たちの愛読書、シリーズ120万部の大ベストセラー。『タイタニック』や『ビバリーヒルズ青春白書』…みたいな恋をしましょう」。
巻頭が翻訳者からのメッセージ。この本がアメリカで愛される理由を牧山さんが分析し、原書では2002だったもののうち、日本では使えなそうなものを省いて1001にした、ということが書かれている。
中身は単純。基本的に、英文と訳文が1001個並んでいるだけ。適当にページを開けて、引用してみると、こんな感じ。

Rent all of the movies that her favorite star is in.
861)彼女のお気に入りの俳優が出演している映画のビデオをすべて借りて来ましょう。

訳本とはいえ、文章には育ちのよさ、セレブ的な雰囲気が出ている。ISBN:4584158959

『拝啓21世紀のあなたへ 16年目の告白』(2000/12、愛育社)

これは小説。同じように帯から引用すると「一通の手紙が巻き起こす波瀾の人間ドラマ。/覚えていますか?16年前、『ポストカプセル21』に入れたあなたの手紙がこの21世紀にいよいよ配達されます。それぞれが思いを込めて書いた手紙が思わぬ波紋を巻き起こす。あなたの手紙は、大丈夫ですか?」。
自分がかって書いた本もこうして波紋を巻き起こしているけど、というつっこみはさておき、この本は9つの短編から構成されている。かっての手紙が配達されるに際し、何らかのできごとを引き起こす、というのを状況を変えて書き分けているわけだ。
設定はどれも、上流階級感をただよわせまくっている。フランスのワイナリーでのできごととか。まあ、自分の知らない世界を書いてくれたほうが勉強になっていいし、面白いけど。
8編目の「青い雲」は、衆議院議員の田代と、その不倫相手である秘書ゆかりの物語。ネタバレになるので結末は書かないけど、この参院選、当選することができたら、牧山さんには初心を忘れずにいてもらいたい。
ブックデザイン(カバーよりも、むしろ中のほう)がとても素敵。小説を書く技術は稚拙で、書いているのは間違いなく本人だろう。というか、ゴーストライターを使うほどの有名人じゃないけど。著者名はペンネームで牧生桂。プロフィールのところに本名も書かれている。ISBN:4750000949

週刊現代』の記事と今後の選挙戦

「雑誌の新聞」(http://www.zasshi.com/)によると、『週刊現代』の記事は「キミは甘〜い」というワイドのなかのひとつで、「<庶民派>牧山弘恵が書いた仰天の『セレブ本』」というものらしい。
これからすると、「日々の暮らしで精一杯な生活感覚」(牧山さんの公式サイトより)を持っている人間が、それとは相容れないような本を過去に書いている。これは問題じゃないか、ってな方向性の記事ではないかと思う。
話を少し元に戻してみたい。牧山さんがこうしたものを著しているということを私が知ったのは、朝日新聞の地方面だ。インタビューの最後に、ずばり書名が書いてあったから。
そのときまだ、本の内容は知らなかったけど、こういうふうに思った。大っぴらに(著作のことを)いうつもりはないけど、何が何でも隠したいわけじゃないってスタンスなんだな、と。本の内容が気になったのは、そういうためでもある。
だから、週刊誌にこういう記事が出るのも、陣営にとっては想定の範囲内なんだろう。どういうふうに対応するのか、あるいはそんなことなどどこ吹く風で選挙戦を進めるのか、興味を持ってみてみたい。
プロフィールだけ見てみても、いかにも上流な牧山さん。にもかかわらず、庶民派のイメージを民主が強く押し出しているのは、たぶん川口順子との差別化を図りたかったというのが、正直なところだと思う。
あるいは、ひょっとすると、こんなこともあるのかもしれない。庶民派を打ち出しているのは、党ではなく本人サイドで、上流階級として生きてきて、そのまずい面を見てきたからこそ、「日々の暮らしで精一杯な生活感覚」(引用元さきほどに同じ)が身についた、と。書きながら、意外とこっちのほうがあるかもな、なんて思えてきた。