『なぎさの媚薬 敦夫の青春 研介の青春』(小学館

週刊ポスト』で、去年の11月から今年の5月まで連載された分の、単行本化。現在も次のパート(なぎさの媚薬「哲夫の青春」)が連載中で、おそらく今年の11月まで一年間の連載ということになり、来年の早い時期に、もう一冊単行本が出ることになろう。
全体的な印象について、id:kanetaku:20040712で

『愛妻日記』と『流星ワゴン』を足して二で割ったような雰囲気の物語と言えるものの、割り方は等分ではなく『愛妻日記』の色が断然濃い。

とあるのに同感。「流星ワゴンのような雰囲気で、官能小説を」と依頼されたのかもしれない。
敦夫の青春について。主人公敦夫は、43歳のサラリーマン。ふとしたことから、昔出会った女と、セックスをする夢を見せてくれる、なぎさという娼婦の噂を聞きつける。そしてなぎさと遭遇した敦夫は、中学校の頃好きだったけど、思いを伝えることができなかったミツコが、大学に入ってすぐ、サークルの飲み会で酔わされ、レイプを受け、そのショックで自殺するという衝撃の事実を耳にする。その運命を変えるため、過去をやり直すというストーリー。
細部まできちんと練られていて、週刊誌で連載されたというのがうそのような、完成度の高い話だった。酔わされうんぬんのところは、スーフリ事件が元になっているのだろう。重松清は以前早稲田で講演会をした際に、この問題について「僕もOBのひとりとして、心を痛めている」と語っていた。そう思っていても、こうして小説の中で扱うということに、彼がフリーライターとしてやってきた矜持が感じられる。新潮社のサイトで『卒業』について、「今の僕の、ベストを尽くして…」というコメントがあったが、この『なぎさの媚薬』もまた、違った意味でベストを尽くした作品になっていると思う。

予告

「CATVネットワーク すばらしき私の街スペシャル」という番組が7/25の13:00-15:00にBS2であり、重松清他が出演予定とのこと。

吉野敬介著『自分で決められないヤツは受験するな!』(PHP文庫)

『さらば借り物人生 何も言わない受験生、何も言えない親たちへ』(PHP研究所)という単行本の文庫化。昔、代ゼミで彼の授業を受けていた時に、この本はどちらかというと、(暴走族時代ではなく)代ゼミ講師になってからのことを中心に書いたと聞いたことがある。そんなわけで、子育てのあり方とか、話題が受験に限らないものが多かった。読みながら、推量の「む」と聞いても、「あれなんだっけな、6個ぐらい意味があるんだよな」と、受験からだいぶ遠ざかったことを実感。
ビックリしたことがあって、重松清の『ナイフ』(新潮社、新潮文庫)のなかの「ナイフ」という中編についてと思われる言及があったので、引用してみる。

どっかの小説に、いじめを受けている子どもの復讐のため、うだつの上がらないサラリーマンの父親がナイフをポケットに入れ、駅前にたむろしている不良に挑み、コテンパンにやられる話があった。そんなカッコ悪い父親の姿なんだけど、それ以来、息子が口を利くようになった。とまあ、甘ったるくて、気持ちの悪い話なんだが、少なくともオレは、子どもは見ていると思う、親の闘う姿を。(192Pより)

吉野が文芸書を読むということに驚き、予期せぬ重松清への言及に驚き。

週刊朝日』7/23号「本のひとやすみ」

4人が交代で執筆のこのコーナー。先週が重松清の番だった。取り上げられたのは、宮田珠己『晴れた日は巨大仏を見に』。この本はどっかで見たことがあった。生協かな。