須田鷹雄著『いい日、旅打ち。 公営ギャンブル行脚の文化史』(中公新書ラクレ、2009/11)

ダービースタリオン96」のころだっただろうか。強い馬を育てるというゲーム本来の目的に反し、最弱を競う企画が『サラブレ』誌上でなされていた。
私も応募したのだが、予選段階で落ちた。ビリ(つまり先頭でゴールイン)とはならなかったものの、2着か3着ぐらいには入選してしまった記憶がある。
思い出話はさておき、その企画をやっていたのが須田鷹雄で、私は当時、彼の書くものをとてもひいきにしていた。
最近では競馬にかんする興味を失ってしまったが、それでも日本経済新聞で隔週なのかな、連載されている著者のコラムは面白く読んでいる。
それでこの本だ。購入を悩み、とりあえずまえがきを読んでみた。そこには野球ファン、とりわけ地方球場ファンの私を大いに喜ばせることが書いてあった。競馬や競輪なんてどこで見ても同じじゃないか。そういう一般人が抱きがちな問いに、答えるなかでのものである。
「野球にたとえるなら、大阪ドームオリックス戦を見るのと、倉敷マスカットスタジアムオリックス戦を見るのとでは、全く違うのだ。後者でなければならない、というメンタリティも存在する」(p.5)
うんうん、よくわかっていらっしゃる。これでレジへいくことを決意した。

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前置きは終わりにして内容に入るが、本書は著者のパーソナルな紀行文ではない。むしろガイドブック的性格が強く、旅打ちの歴史を紹介することから始まっている。
旅打ち、すなわち旅先で馬券や車券や舟券を買うことだが、著者によれば戦前のほうが盛んにおこなわれていたそうだ。交通機関も発達していなかったのになぜ、と思うところだろうが、そこは本書を読んでもらいたい。
私が感心するのは、旅に使える情報の多さもさることながら、歴史にまつわる事項を、本当によく調べていることだ。その点で類書の追随を許さない。思わぬ収穫の1冊だった。

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以下いくつか言及しておきたいところを。
(p.111)丸亀競艇場の無料バスが、対岸の岡山はまだしも福山から出ているのは驚き。目的外利用したくなる距離だ。金沢競馬場のバスが富山から(p.138)というのもなかなか。
(p.112)旅打ちのオススメ装備品として、デジカメ、メモ帳、クリアケース(ソフトタイプ)を著者はあげている。最後のケースがソフトタイプなのは、バッグに入れることを考えて、だそうである。自分も旅の際にはケースを持っている(パンフ等を入れるため)。しかし、ハードタイプだ。著者がソフトにする理由を読んで、私もそうしようかなと思ったが、よくよく自分の行動を考えてみると、メモを取るときの土台にしていることに気づく。そうなると、ソフトへするわけにはいかないな。