とあるセクハラ教師の記憶

1995年のこと。私は6年2組の生徒で、Mはというと、隣の1組で担任をしていた。
彼についてざっと特徴を書けば、40代で長身かつ眼鏡。職員室ではいつも煙草を吸っていて、怒ると声がうるさいヒステリックな人間であった。よくどなるだけに無気力ではないのだろう。しかし、それを反対に情熱と呼べるかはわからない。
問題行動が生じたのは、運動会を控えた体育の授業。1・2組が合同で体育館を使い、組体操の練習をした。
その授業中、Mはステージからマイクを使い、Sさんという1組の女の子を呼び出した。ほかの生徒に倒立のサンプルを見せるためだ。彼女はたしか、バレエを習っていた。
MはSさんの倒立について解説する。「突いた手から、足の指先までがまっすぐになっている」とか。そうして30秒ぐらいがたったのだろうか。
「お尻も出っ張らずに、ぴんとなっている」
こういいながら、MはSさんのでん部を……
触った。
Sさんのお尻は、床に座っている私たちの側を向いている。つまり、Mは生徒全員の注視するなか、セクハラ行為に及んだのである。

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Mのその後はというと、何事もなく卒業まで担任を務めた。
なぜだろう。世間で同様の例を聞くと、担任をはずして研修を受けさせたり、場合によっては減給・免職になっていてもおかしくはないはずだ。
理由としてひとつには、いまほどスクール・セクハラに対する厳しい視線がなかったことがあげられるだろう。
もうひとつは、Mの日ごろのおこないだ。というのは、まじめだったから許してもらえたのではない。彼は普段から変態と見られていた。だから、先の行為もMの取りうるアクションの範囲内にあり、おおごとにはならなかった。そんな側面があるのではないかと思う。
とはいえ、問題性はちゃんと認識されている。私の担任はもうおばあちゃんという形容が似合う人だったが、後で振り返りこういった。
「ああいうことするのは、よくないと思うなあ」
同僚批判である。しかし、それを教育委員会に告げるようなことはしない。
推測だが、見えないところでパワーというものがあったのだろうか。
同僚のことを告げ口したら、後でしっぺ返しがあるかもしれない、と。
親の側にもいえる。子どもがお尻を触られたといっている。だけど、文句をいったらうちの子がどんな扱いをされるかわからない。だから、泣き寝入りしてしまう。
このように考えてみると、問題は何もセクハラにとどまらない。