映画『十字架』

原作はたいへんすぐれた小説だと思っている。だから、うまく映像にできればおのずと名作になるのでは。そんなことを考えながら、劇場へ足を運んだ。
結論からいうと、完璧に限りなく近い出来ですごく満足。原作の世界がそのまま映し出されていた。もちろん尺に合わせて削られたものがあったり、映像として見せるうえで順序を工夫していたりはするのだが、どれも納得ができるというか……。いい選択をしているなと。
純粋な完璧とならなかったのは、細部の問題。「自分ならこう作るかな」という箇所がいくつかあった。たとえば序盤の教室でのシーン。フジシュンをいじめる面々が一斉に「死ね」コールを始めるのだが、きれいにそろいすぎだと感じた。そういうのは積極的にやるやつがいる一方で、周りがやってるから自分もやっとくかというやつがいてで、濃淡をつけるのが自然だと思った。
あとはフジシュンが自殺した後、体育館で開かれる保護者会(?)のシーン。スペースの広さのわりに参加者が少なく違和感があった。親たちの怒りを伝えるためにもっと人がいたほうがいい。あるいは人数を絞った会であるならば、体育館を使う必要はないだろう。
――と批判してはみたが、100点が97-98点になったにすぎない。
本作はいじめが題材で、わかりやすい救いがあるわけではない。いってみれば興行的に成功しないことが約束されているようなものである。そんな作品を世に送り出してくれた方たちに感謝したい。
横浜ニューテアトルにて。