中島岳志著『世界が決壊するまえに言葉を紡ぐ』(金曜日、2011/12)
星野智幸・大澤信亮・重松清・開沼博を迎えた対談集。前のふたつが震災前、後のふたつは震災後。『週刊金曜日』掲載分を加筆・修正し再構成(奥付より)。
内容としては、各人の視座でもって秋葉原事件やそのときどきのよのなかを見ていくといった感じ。
中島が事件の本を出していることもあって、その話題は大きなウェイトを占める。個人的にメモったところも大半が事件にかんする記述だった。
その意味では『秋葉原事件』を読んだうえで、本書に進んだほうがいいのかもしれない。ただ、読んでいたら読んでいたで、重なる話が多くてうっとうしいのかもしれないが……。
それ以外だと、札幌のホームレスについての記述が興味深い。中島いわく、ブルーシートや段ボールで場所を占拠しないから、ひと目でそれとわからないのだそう。中島はホームレスの形態が本州とは異なる理由を示しているが、それが当たっているかはわからない。ただ、ありようがことなっていることにはすごく興味を引かれた。
p.93の脚注が途中で切れているのは残念。ゲラのチェックをしなかったのかな、と。
谷川俊太郎、多和田葉子、重松清、小川洋子、川上弘美、川上未映子、いしいしんじ、J.D.マクラッチー、池澤夏樹、角田光代、古川日出男、明川哲也、バリー・ユグアロー、佐伯一麦、阿部和重、村上龍、デイヴィッド・ピース著『それでも三月は、また』(講談社、2012/2)
3.11のアンソロジー17作品。うち10個は書き下ろしで、オトク感がある。
とりわけ強く印象に残ったのは川上弘美と佐伯一麦。川上は震災前に発表していた自作を、震災後の世界に置き換えてリメイク。少しずつではあるがたしかに変わった日常を描いている。
佐伯の作品では、この世とあの世の間にある「その世」への言及にはっとさせられた。その世とはすなわち、震災に遭いながら生き残った者たちの世界。