ケリー・ラム著、重松清編集協力『香港魂 返還された香港人』(扶桑社、1997/10)

当時、返還直後で何かと話題だった香港。二国の間で揺れる香港人はどのような気質を有しているのか。本書はそれをつづったエッセイ集。
ネタの賞味期限は切れていると思うが、それでも楽しめた。
著者いわく、香港人は自分の利益しか考えないらしい。だから、仕事をやめるとしてきちんと引継ぎをするような責任感はない*1。また複数人で行列に並ぶときは、グループでどの列につくかを分け、最速で進んだところにあとで合流する*2
これらはいずれも納得できるところがある。仕事はひとりに任せすぎてはいけないし、後者も横入りし放題の無秩序よりましなのかな、と。
もっとも興味深いのが、映画撮影について書かれた部分。香港映画の90%ぐらいは、同時録音をせずに、あとでスタジオで吹き替えをするのだそう*3。一見、二度手間のように思えるが、香港はどこもうるさいことに加え、役者側にもメリットがあるという。つまりあとから修正ができるので、セリフはそれっぽいことをいっておけばいい。しかも、吹き替えは別の役者に任せたりもする。それでスケジュールを回していく。このへんも合理的だなあと思わずにはいられない。
最後に、「これからの香港」と題した文章から引用。

現在の解放政策の下では、中国にとって香港はなくてはならない存在ですが、解放・現代化がより進んだ後、二〇年もたてば、今度は香港にとって、中国はなくてはならない存在となっていることでしょう。*4

本が出てからまもなく16年だが、この予測は当たりつつあるのだろうか。

*1:p.18。

*2:p.61。

*3:p.195。

*4:P.254-255。