山本美希著『Sunny Sunny Ann!』(KCDX、2012/7)

車をすみかにした娼婦が主人公で、彼女のもとにあれやこれや起こるというのが大まかなストーリー。『モーニング』に間をあけて5回掲載されたもので、形式的には連作短編になっている。
目を引くのは構成のうまさ。主人公アンを2話目でサブへ配するアイデアもそうだし、あとは家や家族を持つこと、先の人生への不安といった要素を通底させている点。どういう展開やシーンを用意すれば主題が貫けるか、そのことにすごく自覚的だなと思った。
余白(ここではセリフのない部分という意味だが)の配置も的確。たとえば、子どもを誘拐してしばらく行動をともにする場面があるのだが、子の楽しさ、アンの思索は絵だけで感じさせている。
実をいうと、最初のほうを読んでいて、ストーリーだけなら小説にもこのレベルのものはあるなと思った。では、小説作品以上の何かがあるのだろうか。それを考えると余白だった。
小説は常に何かしら文字を書いてなければいけない。しかし、漫画は絵のみで済む。その分、読者が思い至るところの広がりは大きくなる。
漫画の可能性を感じる1冊だった。
ところで影の濃淡をつけない絵は、作者なりのアートなんだろうか。視認性が低いために、何度かページを行きつ戻りつしたことは記しておきたい。