稲田耕三著、重松清解説『高校放浪記』(角川文庫、2011/2)

心に深くしみわたる1冊だった。とある少年が不良となりて、ケンカを繰り返すようになるまでを描いた手記。
主人公・耕三は頭がよく、考え方が戦略的。それゆえ、どうすれば自分が救われるのか、ちゃんとわかっている。だけど悪の道から逃れられない。
最善の策が明らかでも、それにしたがった行動ができない。自分を思ってくれる母や教師がいるのに、素直に感謝を伝えられない。
正しさに対する反発なのか、あるいは10代の不器用さなのか。いずれにせよ、共感するところの多い作品だった。

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解説・奥付によると、本書は1978年に角川文庫から前後編で刊行されたうちの前編の文庫化。それらの親本は1972年から73年にかけて、サイマル出版会から4冊シリーズで刊行されている。この4冊、もとは『高校放浪記』『続・高校放浪記』の2冊だったものが、後から2冊出たために、1・2・3・4というナンバリングになったらしい。
NDL-OPACによると、稲田耕三の著書はほかに『行きどまりの青春』(ルック社、1975)、『地獄塾奮戦記』(角川文庫、1982)がある。

文庫解説

4月にハルキ文庫から刊行された有島武郎一房の葡萄』で、巻末エッセイを書いている。同書は280円文庫シリーズとして全10冊でているうちの1冊。