『十字架』(講談社、2009/12)

純粋な書き下ろし作品は「14年ぶりぐらい」*1になる。その意味は十分にあったようで、かつてないほど血の通った作品ができあがっている。
詳しくは著者のインタビュー(末尾URL中、9:37)を聞いてもらいたいが、大河内清輝さんの父親との対面が、この本のベースにはある。自殺の状況も似せている。
事件というものは一定期間マスコミに消費されたのち、またあらたな何かに取って代わられる。しかし、かかわった人間の記憶がなくなるわけではない。もちろん、忘れていくかもしれない。そこには時間のうつろいがある。本書は作家の想像力でその時の流れを書いてみようという試みである。
これまでにも同種の作品はあったが、読み物に仕上げることが重視されていた。しかしこの本は、熟慮してひとつひとつの感情を書き込んでいるのがはっきりとわかる。過去とは、目指すところが変化したのだろう。
版元は『カシオペアの丘で』『かあちゃん』と合わせて、本書を「ゆるし」三部作としている。しかし、前二作と違ってわかりやすい「泣かせ」の場面はない。きっと売れないだろう。それでもいい小説なのだから、大々的に広告を打ってもらうだけの価値はある。
http://shop.kodansha.jp/bc/100/past/shigematsu_index.html

徳島で講演

来年1/17。どうでもいいけど、プロフィールで取り上げられている著作が最近のじゃないやつばかり。
http://www.pref.tokushima.jp/docs/2009120400194/

*1:1995年の『舞姫通信』、1996年の『幼な子われらに生まれ』のころ以来。後者は単行本に「書き下ろし」との表記がないので、もしかしたら違うのかもしれない(初出の記載もないが)。