彩河杏著『三日月背にして眠りたい』(集英社文庫、1989/10)

主人公は萩原生菜子(きなこ)、17歳。バイトをクビになりしょぼんとしていたある日、知らないじいさんが自分の部屋を訪ねてきた。その人は、生菜子のおばあちゃんのだんなで、いまは下宿を経営しているという。生菜子はその下宿「三日月荘」の「小間使いさん」として働くことに。そこで繰り広げられる、住人たちとの物語。
気持ちよく読める1冊だった。作るほうとしても、次々に住人を描いていく方法なら、ストーリーに悩むこともなくて楽だったのではと思う。ちなみに次回作、『満月のうえで踊ろう』はこの続編になっている。

彩河杏著『あなたの名をいく度も』(集英社文庫、1989/7)

主人公の原田郁(男)は、あるとき、「魂の国」に迷い込む。そこにはハラダカオル(女)がいて、本当は郁ではなく自分(カオル)が生まれるはずだった、と主張する。そしてカオルは、郁に対して、人間の世界で生きられるように、体を貸してくれとお願いをする。入れ替わった世界で、カオルがしたことは…。
いまの角田光代は、こういうファンタジーを書かないね。