単なる雑記

漫画にせよ小説にせよ、エロに対して私は多少厳しく評価している。というのは、ただエロというだけで特に面白くなくても読めちゃうからだ。
そんななかにあって手放しで絶賛できるのが西村寿行だった。3、4年まえ、彼の作品を10冊ほど読む機会があったが、まったく古びていないし、それどころか、いまの時代にこれほどのものを書ける作家はいないんじゃないかという気さえする。
その10冊のなかでとりわけ印象に残っているのが、短編集『症候群』の表題作。山中に住む老人とその下僕。そこに助けを求めてきた幼い兄妹。老人たちは兄妹を飼う。裸にして監禁し、いくつになったら性行を始めるのか観察するのだ。しかも、それに飽き足らず、別の成人男女3組をさらってくる。そして、透明の強化ガラスで作った4つの檻のなかに、おのおののペアをぶちこむ。もちろん裸にして、だ。すっかり性交に勤しむようになった兄妹を横目に、ほかの3組は正気を保てるのか。
こんな筋なのだが、まず力強い文体が読ませる。そして、ストーリーだ。一応、次はこうなるのかなと想像しながら読むわけだが、その予測をはるかに凌駕する展開が待っている。この「症候群」に限らず、西村寿行の作品はいつだってそうだ。
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先立って、「いまの時代にこれほどのものを書ける作家はいない」と私は書いた。それは性に対する意識の変化があるのかもしれない。表立って語るのがはばかられたときを経て、いまは気軽に発言できる時代だ。後ろめたさはない。
一方、西村寿行の作品はというと、もちろんジャンルのためもあるだろうが、そこには「暗」が満ちている。女というのは「犯す」もので、交わって素敵なひとときを過ごすなんてことは決してない。
それを思うと、私が彼を好んで読めたのは、作品が古びていなかったからではなく、「暗」に満ちた古さのなかに、逆に新しさを見出したからなのかもしれない。