噂の山パンバイト

イントロダクション

山崎製パンでのバイトの話は非常によく聞く。それもネガティブなものを。だから、どんなものなのだろうと気になっていた。
このたび、Waseda-netのアルバイト情報に山パンバイトが出ていたので、応募してみる。条件は、勤務時間が9:00-18:00(休憩1時間)、日収例7500円、交通費は実費支給というものだった。
全国に数ある工場のなかで私がいったのは、西武新宿線小平駅から歩いて15分の武蔵野工場だ。
入口近くの守衛のところで「はじめてなんですけど」というと、後からきた女性に「この人初めてだそうなんで、連れていってあげてください」とお願いしてくれた。敷地が広いので、ひとりで適当に歩いていたらたぶん迷っていたと思う。
初めてなので、人事課の人に説明を受ける。あと、もろもろの書類記入。指示されていない作業は勝手にやらないとか、けがしたらすぐに申し出るとか、動いている機械に触らないとか、そういう誓約書みたいなものを書かされる。あと工場までの交通費を記入する紙もあった。
私たち早大生は、日払いで7500円だったが、一般のバイトは一か月分まとめて振込だそう。時給は時間帯によっても違うみたいだけど、昼で815円とか。これを9時間なので9倍すると7335円だから、だいたい同じぐらいの金額をもらっていることになるのだろうか。
上着、ズボン、帽子と、髪の毛が落ちないように着けるヘアーネットを持って更衣室へいく。ロッカーはリターン式ではなく、もらったメダルを使う。リターンされないので、ロッカーに何か入れ忘れたりした場合には、もう一度もらいにいかなければならない。
着替え終わると、食堂に集合し、各セクションごとに作業場所に移動する。セクションというのはたとえば、和菓子を作るところだったり、洋菓子だったり。
周囲を見渡すと、男女比は半々から6:4ぐらいだろうか。女性の場合は、ご婦人の方も大勢いらっしゃる(もちろん私と同年代の女の子もたくさんいる)。力仕事がないこともないのだが、女性には割り当てられない(マスクをするので顔は目のあたりぐらいしか見えないのだが、男女の別は上着の色の違いでわかるようになっている)。

作業

仕事をしたかどうかのチェックにはメイトカードというやつを使う。これを作業場所手前まで持っていき預けると、帰るときにスタンプを押してくれる。
私の作業は最初、パンを焼く際に、それを載せるための型みたいなもの(けっこう重たい)を、ラインにぶち込むというものだった。おばちゃんが説明してくれたものの、ミスしまくりで、半ば呆れられる。まあ、ミスしたのは事実だし、悪いと思っているが、大量の説明を1度で覚えきるのは、無理というものだろう。

ヒステリおばちゃん

このおばちゃん、そばにもうひとりいた男子学生には、より厳しく当たっていた。私がそれほどの被害を受けずに済んだのは、彼がおばちゃんの怒りをいくぶんか吸収してくれたからだろう。こういう人は、近寄らないようにするか、あるいは文句をいわれても「はいはい」と聞き流すぐらいの気持ちでいることが重要ではないかと思う。

休憩

昼以外には休憩が一切ないのだが、意外とトイレへはいきたくならない。尿意さえ忘れさせるほどのハードワークだからだ。

昼食

全員が一気に食事をすると、食堂が満杯になってしまう。だから、人によって時間はまちまち。担当者に指示されたら、食堂へと向かう。早いと11:00ごろだし、遅いと14:00過ぎということも。
食堂内には、山崎パン製品が置かれていて、これは無料で食べることができる。あと、茶や水も機械があるので無料。食事は食券式で、昼については定食というものがなく、ライス50円+おかずを購入するという感じ。丼とか一品ものもある。
無料のパンを食べている人と、食券買う人の比は、ぱっと見た感じでは3:7ぐらい。

談話室

食堂の隣には談話室があり、テレビ、新聞のほか、大量の雑誌がある。『少年ジャンプ』『少年マガジン』『少年サンデー』『JJ』『女性自身』『女性セブン』『an・an』『旅』とか、あとは車雑誌やら、これだけあれば、どれかひとつぐらい読みたいやつがあるだろうという豪華なラインナップ。

昼食後

自分で時計を見て、そろそろ1時間だなと思ったら、元の場所に戻る。といっても、工場内はとても広いので、食堂いくのに10分、戻るのに10分を考えておくようにいわれる。
しかし、少しぐらい遅く戻っても、全然ばれない。だれかが時間をチェックしているわけではないし。まあ、各人の良心に任せる、ということか。
朝から、型をぶち込む作業をしては、合間にお掃除の繰り返しだったが、別の作業に回される。交代で昼食にいくため、とくに昼どきに欠員補充的な意味で作業を変わることが多いようだ。
新たな作業は、ご飯をすくって、巨大炊飯器に放り込むというもの。すくうといってもしゃもじではなく、ひしゃくをでかくしたようなやつ。家庭用炊飯器なら1個がいっぱいになってしまうぐらいの分量を、一度で放り込む。米の重たさが、ひじにくる。
しばらくして朝やっていた場所に戻り、初日の作業終了。ここのバイトには早く終わるということが一切ない。18:00ちょうどまでやる。そして、入れ替わりに夜勤の人が入ってくるのを横目に見つつ、製造ラインを出ていく。

お金をもらう

一般の人は作業後にカードを受け取り、そのまま着替えて帰る。けれども、私は金をもらわねばならない。
作業後に支払うという条件だったはずなのに、「3日分まとめてということになってたと思うんですけど」といってくる。別にまとめてでも私には何の不都合もない。だが、事前に提示したことは守らせたいので、「プリントアウトしたやつ持ってきましたけど」といって、多少嫌がられつつも、1日分の金をもらった。
3日分まとめてということを向こうがいってきた理由はなんだろうか。経理が面倒くさいか、あるいは残り2日をすっぽかされないためにかと私は思ったが、そうではなかった。
細かいほう900円の支払いが、500円玉1枚に、100円玉が3枚、そして残り100円が50円玉2枚なのだ。一般のバイトは振込で対応しているから、現金のストックがないらしい。

2日目

最初はきのうとまったく同じ作業。おばちゃんに「あら、あなたきのうもいたわね」「きのうと同じことをやればいいんだからね」といわれて、これは気が楽だと思ったのは一瞬だけ。
すぐに作業がかわり、10:30ぐらいから、蒸したご飯の処理をやらされた。ずっと同じ単純作業であるがゆえに、きのうのようにぐじぐじと文句をいわれないのはいい。しかし運ぶご飯がとても重く、しかも○時○分に作業をするというのが細かく決まっている。相方の作業が遅かったり、あるいは交代で昼食にいったりしたため、進行が遅れ気味になり、気が触れたかのように猛烈なスピードで、回復運転をおこなう。
最後までそんな感じで2日目終了。蒸したご飯を散らすために、へらを使った。このへらを消毒するための液体があったのだが、これにじかに触れたのがいけなかったらしく、私の右手はいま、やたらと荒れがひどい状態である。

2日目のお金

こんなことをいわれる。「きょうは100円玉はあったんですけど、大きいほうが全部1000円札なんですよ」。やっぱりきのうの50円玉2枚は、100円玉がなかったからなのか。
全部1000円札でも、バイト代はもらったらすぐにATMにいれるから、どうでもいいのだけど。

3日目

機械で製造され、ラインで流れてくるまんじゅうを拾い上げ、別の器へと移す作業。過去2日間同様、やることは単純だが、気が休まらないという点に大きな違いがある。
この日は途中でやることがなくなったためなのか、休憩ではないけど、待機する時間があった。その場にいた10数人を見ると、全員が目を閉じて眠りについているようだ。
再開後、リポビタンDが支給され、「じゃあもう少しですけど、がんばってください」といわれ、気合が入る。あと2時間で、私の山パンバイトも終わりかと思っていたら、人事の人がやってきた。そして各人に「○○さんはきょう、20:00まで残業できますか?」と聞いて回る。人が足りないのか、それとも、春のパン祭りのために生産量を増やさねばならないのか。両方なのかな。映画のイベントにいく予定があったのだが、「できます」といってあげる。
残業時に作業内容はかわり、ラインを流れてくる大福みたいなものを、箱に入れ、袋に入れ、というものだった。これまた単純。しかし、流れてくるスピードが速いこと速いこと。ぐったりとした状態で、バイト終了。

3日目の支払い

「きょう残業されましたよね?」「はい」「たぶんこれで残業代が入ってると思うので、確認してください」
残業代は時給1200円の計算だった。予想していたよりもいい待遇だ。

雑感

・休憩
昼に1時間だけしかなくとも、トイレにいきたくはならない。しかし、集中力が切れてくるから、ミスが起こりやすくはなると思う。細切れに5分とか、10分でもあったほうが、長い目で見れば作業効率があがると思うのだが。
・工場内
工場のなかは広くまるで迷路だ。地図はほんの少しだけしかなく、容易に迷子となりうるし、実際になった。
近くにいる人に道を聞くわけだが、「3Fかな? またわかんなかったら、こうやって誰かに聞けばいいから」という。
やさしく教えてくれるのはいいことだ。しかし、全員に地図を持たせるか、柱や壁に3-A5とか、記号をつけて、場所をわかりやすくするなどの工夫があればいいと思った。
・作業服
男女の色の別はあるのだが、バイトと社員も別にしてほしいものだ。この区別がないと、何をすればいいかわからないときに、聞くべき人がどこにいるのか、判別がしにくい。
・作業方法
階数ボタン押しっぱなしでエレベータが上昇するとか、使い方を紙で貼り付けておけばいいのにと思う部分がたくさん。
作業前に浴びるエアーシャワーとか。ある動作(いまだにわかっていない)をしないと、鍵がロックされたままになってしまう。周りに人がいれば助けてくれるが、自分しかいなかったら、脱出できなくて悲惨だ。
・工場で働くということ
学生というと、コンビニとかカテキョとか、そういうのがポピュラーだろう。しかし、工場のなかを見ておくのもいい経験じゃないかと思う。いま流行りの「大人の社会見学」みたいな感じで。