絲山秋子著『逃亡くそたわけ』(中央公論新社)

絲山さんは初読み。だけど、最初に芥川賞候補になったときから、プロフィール*1を見て興味は持っていた。早稲田卒というのもあるけど、それ以上に、精神を病んで書き始めたというところに。
で、この本だけど、表題作1編からなっている。簡単にまとめると、精神病院の入院患者である男女が逃亡するという話。
と書いてしまうと、重たい話のように思うかもしれないが、ふたりの逃亡に深刻さは見られない。日常の延長でふらっと病院を抜け出してきた、ぐらいの感じだ。
しかし、それでも病は彼らに寄り添っていて、ときおり姿を見せる。一日中蝕まれているわけでもなく、かといって、まったく影響がないわけではない。その絶妙なバランスは、絲山さんでなければ書けないだろう。そんなことを思った。