朱川湊人著『さよならの空』(角川書店)

元帯には、石田衣良のコメントがついている(直木賞受賞後の帯ではカット)。余談だけど、あした、紀伊国屋新宿本店では朱川湊人、新宿南店で石田衣良のサイン会がある。同じような時間に。客を奪い合うことにならないのかな。
初出は書いていないので不明。長編がいくつかに分節されている。
ときは明確に書かれていなかった気がするが、近未来のある日、オゾンホールが無視できない以上に拡大する。そこで、ウェアジゾンという物質を大気中にばら撒き、オゾンホールの補修をすることに。しかし、それにより、夕焼けの空が見えなくなる、という副作用が生じる。
当初、この副作用が説明されずに計画が実行に移されたため、反発する人もでてきた。そんなところから始まる、研究者の女性を取り巻く物語。
全体として、満足な1冊だった。細かい点を見ても、うまいなあと思う。

「大丈夫よ、ケン。あなたを待っている間、私、家と学校の往復しかしないわ。ファスナーのスライダーみたいに」(p.15)

発言主は外国人女性なのだが、最後の表現に、いかにもな外国人っぽさが感じられていい。
最後に気になった点をふたつほど。

この学校でもこの間までは、寒くてもなるべく半袖半ズボンの薄着でがんばろうって…(p.118、以下略)

先生が生徒に向かっていうセリフ。「この」が2回続くのがまず気になった。あと、学校の先生の言葉として「この学校」は漠然としてるというか、客観的過ぎるんじゃないか、と感じる。「うちの学校」とか、具体的な学校名とかのほうが、現実味がある。

元凶である物質を発明した自分でさえ、世界から夕焼けが消えるのを寂しく思っているに、この少年はなぜ――。(p.146)

「いるに」を「いるのに」とはしなくていいのかな。