朱川湊人著『白い部屋で月の歌を』(角川ホラー文庫)

棚にぽつんと1冊だけ置いてあった。直木賞取ったのに、増刷していないのだろうか(初版本だった)。
「白い部屋で月の歌を」と「鉄柱(クロガネノミハシラ)」という中編2本からなっている。前者で第10回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。分量的にそれだけでは1冊にできないので、後者を書き足した、ということだろうか。
「白い部屋で月の歌を」は、

私の仕事は憑坐です。
未熟な私に詳しいことはわかりませんが、地場から引き剥がした霊魂は、その状態では極めて不安定です。下手をすると、剥がすそばから別のエネルギーにつかまってしまうこともあるのだそうです。
それを防ぐために、私が仮の器になるのです。(p.27より転載)

というお話。どうしてこんなので賞が取れてしまったのか、というぐらい低レベル。一応、枚数を費やす意味がある内容になっているが、同じようなエピソードの繰り返しで萎えた。
というわけで、さほど期待せずに「鉄柱(クロガネノミハシラ)」にいったのだが、こちらは素晴らしい出来。
主人公の雅彦夫妻は、東京から田舎の営業所に飛ばされてしまう。その町の広場には高さ2メートル30センチほどの鉄柱があり、住民の雰囲気がとても不思議なところだった。
これを読んで、『花まんま』がどうして魅力的な話になりえたのかが理解できた。人間の心の機微と、ホラー、オカルト的な要素のほどよい融合というか、そういうのがこの「鉄柱(クロガネノミハシラ)」にはあった。