『小説現代』5月号
「ワインをめぐる12の物語」というシリーズがあり、その第5回「ひとしずく」を重松清が書いている。
妻紀美子の誕生日に、「物語」のこめられている(要するに高級な)ワインを買い求めた夫の和夫。しかし、ふたりで優雅な記念日を過ごそうという思いは、さえぎられてしまう。
読者をぐっとひきつける話だった。『婦人公論』の男性版みたいな感じ。
どうでもいいけど、挿絵についているロゴが、第5回を示すはずの「Ⅴ」ではなく「Ⅳ」になっていた。12回終わったら、1冊の本にまとまるのかな。
ほかにも、第73回小説現代新人賞発表(重松さんも選考委員)ということで、選評が掲載されている。
『オール讀物』5月号
シリーズ小学五年生の掌編2本「こいのぼり」と「カンダさん」が掲載されている。どちらも主人公は五年生の男の子。
「こいのぼり」は転校してきたばっかりで、周囲とあまりうまくいってない状況を描く。
「カンダさん」は、知り合いで仲のいいお姉さん、お兄さんが結婚するのを、男の子が知るというお話。
後者は、自らの結婚が、あまり望まれたものでなかったらしきことが、話作りに影響してるのかも。あとちょうど『明日があるさ』を読んだ後だったので、なぜ六年でもなく、四年でもなく五年生なのか、というのがわかった(p.111「どこまでもいこう」参照)。
またこの号では、第85回オール讀物新人賞の発表があり、重松清を含めた選考委員による選評が載っている。
『明日があるさ』(朝日文庫)
一応は『セカンド・ライン』の文庫化。だけど、「バラエティブックとして完璧な仕上がり」(あとがきより引用)だった同書を、そのまま文庫にすることはせずに、100あった文章を、文庫本の解説を中心に35本削って、全65本にし、順序の再構成が施してある。気になった点についていくつか。
十数年前に教育実習で通った都内の私立中学…(p.30)
これって、早稲田の系属校のことだよね。母校での教育実習をなぜか断られた、という話がどこかにあった。
(高校野球において)全国各地から選手が集まる私立高校はやたらと評判が悪いのだが、私立の進学校には全国から選りすぐりの秀才が集まっているのに、東大合格者ランキングで「○○高はずるい」という声は聞いたことがない。(p.36)
野球の場合は、学費や生活費(寮で面倒見てもらったり)の補助をして、生徒をひっぱってくるからじゃないかな。進学校はただ勉強したいからそこへ通うのであって、学費をただにしてる、なんてことはないと思う。
再構成にあたり、Sくんについての文章をまとめてくれたのがうれしかった。
以下は、個人的なメモ。2つめの数字は『セカンド・ライン』における収録番号。
- 1マンモス西を探して
- 2友だち三人できるかな
- 3同じでも「一つ」じゃない
- 4護心用のナイフ
- 15物語のないヒーローたち
- 17反乱せよ、球児諸君
- 18田舎者くんに捧ぐ
- 19三人目の漱石
- 20のび太が手にした「道具」
- 23二十一世紀少年の「未来」
- 24大きな言葉/小さな現実
- 25家族は「社会問題」か?
- 26不幸せとの付き合い方
- 27「嫌い」と「苦手」について
- 28懐かしの電話ボックス
- 29転勤族の息子として
- 30「育児」ってなんだ?
- 31不幸な時代には英雄が必要に……
- 32デパートの屋上にて
- 33なぜ人を殺してはいけないか
- 34学校が「安全」だって?
- 36「わかりやすさ」は怖い
- 37オジサンは「くさい」--のか?
- 38ナイフとクラッカー
- 39転校生の哀しさ
- 40本を見上げる少年
- 41どこまでもいこう
- 5ハッタリとクヨクヨの狭間で
- 6「癒し」はウサン臭い
- 7ひとの暮らしをなめんなよ
- 8だいじなことは小さな声で語られる
- 9「負け」に負けないで
- 10こんな見方だって、あり
- 11手加減するな
- 12子どもだからお金の話をしよう
- 13「知る」ことから始まる
- 35観てから文句言いなよ
- 14歳をとるのも捨てたものじゃない
- 22寂しい歌の流れる時代
- 21少女が、それでも信じているもの
- 97「さよなら」の数
- 16明日があるさ
- 90あの日から始まった
- 84桃の季節
- 65さらば、相棒
- 64相棒との「再会」
- 85じゃあ、またな
- 76二十一世紀の雪だるま
- 77自転車世代
- 78男子ってガキなんです
- 79元・女子の皆さん、お元気ですか
- 80最も古い同居人
- 83古いギターと友人と
- 81タンポポと鯉のぼり
- 82わが恩師
- 71あおげばとうとし
- 91ニュータウンのおじいちゃん
- 92ブリまんじゅう
- 93カレーライス
- 94ふるさとの六月
- 95引っ越し人生
- 96片道だけの孝行息子
- 98二人のおばあちゃん
- 99田村章と岡田幸四郎
- 100ぼくは昔「ポン」と呼ばれていた
こうしてみると、けっこう細かいところまで、順序にこだわっていることがわかる。例えば、83、81、82としたり、64と65を逆にしてみたり。
収録されなかったのは、42から63、66から70、72から75、86から89の計35本になる。これらは文庫本の解説が多い。『セカンド・ライン』53番の、中上健次サイン会についての文章が落とされたのはとてもとても残念。
空より高く(読売新聞夕刊)
告白に対する返事が微妙だっただけではなく、その後の付き合いもまた微妙なものになっている。
4/22:ひとはみな一人では……13
4/23:ひとはみな一人では……14