西田俊也著『やんぐとれいん』(文藝春秋)

青春18きっぷを使って同窓会を開くというお話。参加者は、30代になる高校時代の同級生男4人女2人。特に目的地を決めずに、電車に揺られながら、それぞれが心の中に抱えたものが明らかになっていく。
高校のある駅を乗り越して、どこまででもいってしまいたい、という感覚について、p.62ほかで書かれている。これは私にはわからないものだ。藤沢から小田急に乗って、柿生で下車するという高校時代だったため、柿生を過ぎてもたどりつくのは新宿。心を休めたいから、どこまででもいってしまいたいのに、にぎやかなところにいったって、意味がない。反対に、新宿方面から通っていた人には、この感覚がわかるんだと思う。現に、わけもなく小田原までいって戻ってきた、なんていう話を人から聞いたことがある。
そんなふうに、鉄道に幻想みたいなものを抱く人が読むと面白いんじゃないかと思う。別に幻想ってほどじゃなくても、高校時代に、学校に通う電車の中、ちょっといいなあと思う女の子を、毎日のように眺めていた、なんていう男性のみなさんなら、きっと共感するところがあるはず。男女逆でもいいけど。
帯にはやまだないとの推薦文。初出は『別冊文藝春秋』2002年11月号から2003年9月号。