渡辺一史著『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』(北海道新聞社)

先週の月曜日に生協で買ってきた。奥付を見ると2004年5月12日10刷発行とある。私は「売れてる本だから買う」というのが嫌いなので、重版のものを手にするのはずいぶん久しぶりだ。日曜日にあったイベントの予習をしておこうと思ったからなのだが。
内容の方は副題に「筋ジス・鹿野靖明(しかのやすあき)とボランティアたち」とあるように、障害者とそれを支える人たちのお話。鹿野は進行性筋ジストロフィーで、動くことが困難。だから身の回りのことはもちろん、痰の吸引をボランティアに手伝わせざるをえない。この「手伝わせる」という言い方がポイントで、彼はボランティアに対して「してもらう」という意識を持たない。当然のものとしてボランティアを受けるのだ。従来の考え方からすると、生意気に見えるかもしれない。そんな彼とボランティアが、どのようにして信頼関係を築くのかが描かれている。
著者の渡辺一史は編集者からこのテーマを持ちかけられ、以後、鹿野の介護をしながら、取材にあたる。「自分が書いていいのか」「なんのために書いているのか」というように自問自答する姿も描かれている。ここらへんがふたつのノンフィクション賞を受賞するきっかけとなったのかなと思う。
鹿野とボランティアの姿を知ることができるのはもちろんだが、前半にはかなり詳細な注がついていて、障害についての知識、これまでの状況の変化を理解することができる。とても勉強になった本だが、時を行ったり来たりする構成はもう少しどうにかならなかったのかと思う。
カバーがリバーシブルになっていて、裏返すとバナナ色の上に鹿野さんの文字が書いてあることも含めて、素敵な本に仕上がっている。ぜひお手元においてもらいたい本。
この本のことを書こうと思ったら、ちょうどid:zabon:20041003に関連したリンクが張ってあった。感謝。